使えないルアーを“新品”に 鉛は溶かし型取り 色付けは自ら 海の掃除屋「不死鳥のように」【SDGs】

根がかりした釣りのルアーを回収しリサイクルする「海の掃除屋」の話題です。これまで誰もやったことのない海洋ゴミから作るオリジナルのルアーとは?【SDGs】

3月28日、焼津市の石津浜海岸で行われた海の清掃活動。地元の高校生たちが海岸に落ちたゴミを拾う中、ウェットスーツに身を包んだのは“海の掃除屋”「マリンスイーパー」の土井佑太さんです。

土井さんが海に潜って拾うのは、釣り人が海底に引っかけた無数のルアー。根がかりしたルアーは釣り糸と共に海に残り、その釣り糸がさらなる根がかりを生んでいます。

<マリンスイーパー 土井佑太さん>

「やっぱり糸が一番問題。糸に生物が引っかかっちゃうと抜け出せなくなっちゃう」

ルアーの根がかりは釣り人たちが、長年”見て見ぬふり”をしてきた問題です。

<釣り人>

「ちょっと…申し訳ないというか。釣りをしていることがゴミを捨てているのと似たようなことになっているのがすごく残念」

1年前に海中清掃を始めた土井さんは海から回収したルアーを塗装し直して「リメイクルアー」として販売。その利益を次なる清掃活動の資金に充ててきました。しかし、ある問題に直面します。この1年間で何千個もたまってしまった『リメイクできないルアー』の存在です。

<土井佑太さん>

「これはルアーのアイと呼ばれるワイヤーがさびて折れちゃっている。いくら色を塗り直してもそもそも必要なパーツが壊れている」

そこで、土井さんが考えたのは「新しいルアーを作る」という逆転の発想でした。協力を依頼したのは浜松市南区のKATOSEIKO。国内100社以上のルアーを受注・生産する会社です。

持ち込んだリメイクできないルアーを窯に入れると…大型のガスバーナーで熱し始めました。

<KATOSEIKO 加藤芳基さん>

「鉛の融点は320度〜330度なのでそこから溶け始めていく。鉄は融点が1000度超でこの程度では溶けないので取り除ける」

熱することでルアーから塗料や鉄のワイヤーが完全に分離し、素材として使える純度の高い鉛が精製されました。

土井佑太さん

「おお、きれい。さっきまでこの状態ですからね。こんなのがこれでしょ。ここまで奇麗になるとマテリアル(素材)として利用できる」

次に、でき上がった鉛のインゴットを再び高温の炉へ。専用の機械で土井さんがデザインしたルアーの型に鉛を流し込み、高速で冷やすと…

<土井佑太さん>

「おー、分からないですね全然。とても海の中にいた鉛ゴミから作ったとは思えない」

資金不足のためルアーの塗装は自ら行い、目玉を貼り付けたら完成です。土井さんは、このルアーを「メタルフェニックス」と名づけました。込めたのは、海で回収する度に不死鳥のように何度でもよみがえらせるという決意。今の釣り具業界へのメッセージでもあります。

<土井佑太さん>

「『ウチは作って販売してるだけ。落としたのは釣り人ですよ』。それってたぶん違うと思う。僕は釣り人に『大丈夫、あなたが落としたものは僕がいずれ拾うから安心して使ってくれ』と。『そのために全国で水中清掃するインフラを作り上げるよ』と。そう言われた時にどっちのルアーを安心して投げられるか。だからどんどんメーカーが(水中清掃を)やればいい」

メタルフェニックスはこの春、3000個生産される計画です。

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