「世界最高峰のオペラを自宅で」イタリア・スカラ座がライブ配信 劇場トップのメイエル氏、日本ファンへの熱い思いも語る

イタリア・ミラノにあるスカラ座の内部=Brescia/Amisano撮影(C)Teatro alla Scala(共同)

 世界最高峰のオペラを自宅で鑑賞したい―。イタリア北部ミラノのスカラ座がこんな夢をかなえようと、2月から公演のライブ配信を始めた。劇場トップのドミニク・メイエル総裁は共同通信とのインタビューで、配信が実現するまでの舞台裏を明かした。新型コロナウイルスの影響でスカラ座のオペラ来日公演は10年ほど途絶えている。来日を待ち望むファンへの熱い思いも語った。(共同通信=ダビデ・コメット、田中大祐)

 ▽時代の要請
 1778年の開場以来、ベルディやロッシーニ、プッチーニなど有名作曲家の作品を数多く上演してきたスカラ座は、世界中のオペラファンの憧れだ。しかし、コロナ禍で日本など遠隔地に出向いての公演は途絶えた。近年ではライブ配信に踏み切る劇場が出てきており、時代の要請に応える側面もあったという。
 ―ライブ配信を始めるきっかけは。
 「(以前総裁を務めた)ウィーン国立歌劇場での経験が大きい。テレビでのオペラ放送が少なくなる中で新しい技術を活用し、自分たちで実現しようと始めた。ライブ配信に必要な設備にかかる経費は、オペラを1回公演するよりも安い。2013年に始めてから350回以上配信した。それがスカラ座でも生かせると考えた」

イタリア・ミラノのスカラ座=2月(共同)

 ―コロナ禍で日本公演が中止になっている。
 「日本とスカラ座の間には(1981年の初公演から)長い歴史があり、これからも良い関係を続けていきたい。日本のファンが本当に恋しい」
 「日本の観客は出演者を優しく出迎えてくれる。独特なリズムの拍手を聞くたびに私は感動する。公演の映像を見ると、すぐにそこが日本だと分かるほどだ。近年は残念ながら訪れることができていないが、公演を待ち望む手紙もたくさんもらっている。まずはライブ配信を通じ、日本の友人たちにスカラ座を身近に感じてもらいたい」

取材に応じるスカラ座のメイエル総裁=2月、イタリア・ミラノ(共同)

 ▽機材とスタッフの不足、綿密な準備も
 ただ、伝統的な劇場からのライブ配信にはさまざまなハードルもあった。必要な機材や専門スタッフがいない。オペラの場合には、舞台役者の動きを終始把握しておく必要もあり、綿密な準備も必要となった。
 ―実現までの課題は。
 「技術面での遅れが大きかった。高精細の4K映像配信を行うためには高速インターネットシステムを一から導入しなければならなかった。劇場スタッフにも専門的な技術を身につけてもらう必要があった。設備を整えた上で、1年半前からリハーサルを重ねた」
 「外国人に視聴してもらうには多言語の字幕に対応する必要があった。今はイタリア語、英語、ドイツ語などの5カ国語だが、近いうちに中国語や日本語を含めた8カ国語に増やす予定だ」

ミラノ・スカラ座のオペラ「ホフマン物語」の一場面=Brescia/Amisano撮影(C)Teatro alla Scala(共同)

 ▽戦争と芸術の間で
 昨年12月、スカラ座はシーズン開幕公演で、ウクライナへの侵攻を続けるロシアのオペラ作品を上演。ウクライナ側から抗議を受ける騒ぎもあったが、戦争と芸術は切り離す必要があるとの立場は今回の配信でも揺るがない。
 ―ロシアの作品も対象になるのか。
 「もちろんだ。戦争におけるウクライナの立場は十分に理解している。スカラ座としても、キーウ(キエフ)のバレエ学校の生徒らを招待したり、ウクライナ支援のためのコンサートを企画したりもした。だが、文化を対象にした、いかなる検閲にも私は反対する。ドストエフスキーの小説を読むことを恥じたり、チャイコフスキーの曲を禁じたりするのは大きな間違いだ。このような考え方が進歩をもたらさないことは、世界の歴史が証明している」
 【メイエル総裁略歴】
 1955年、フランス生まれ。パリ・オペラ座の総監督などを経て、2010年からウィーン国立歌劇場の総裁を務める。2020年にスカラ座の総裁に就任。

取材に応じるスカラ座のメイエル総裁=2月、イタリア・ミラノ(共同)

 ▽やっぱり「生公演」も見たい!
 2月中旬の初配信はベルディの「シチリア島の夕べの祈り」。画質に応じて9・9ユーロ(約1450円)から11・9ユーロの価格で、インターネット接続が可能なテレビを使えば大画面でも視聴できる。配信された公演は一定期間の経過後、オンデマンドでも見られるようになる。
 これまでにオペラに加え、バレエやコンサートも配信した。スカラ座の広報担当を務めるジュリア・パティッキオさんは「日本をはじめ、中米のコスタリカやアフリカのブルキナファソなど世界中で視聴された」と、反響の大きさに驚いたという。
 ただ、オペラファンとしては「生で公演を見たい」という声があるのも事実だ。メイエル氏はコロナが終息し、「多くの日本のファンがスカラ座に来場してほしい。われわれとしても、再び日本で公演できるのを心待ちにしている」と語った。

ミラノ・スカラ座のオペラ「シチリア島の夕べの祈り」の一場面=Brescia/Amisano撮影(C)Teatro alla Scala(共同)

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