旧統一教会会長、自民党から関係断絶と言われたのは「衝撃的だった」 安倍元首相銃撃事件後初の個別インタビュー、教団トップが語ったこと(前編)

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長が3月下旬、共同通信の単独インタビューに応じた。昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件で教団がクローズアップされて以降、記者会見を2回開いたものの、個別の取材に応じたのは初めてだ。このタイミングで取材を受けた意味は。そして問題と指摘された高額献金や自民党との関わりについて何を語ったのか。約2時間に及んだインタビュー内容と、有識者らの受け止めを2回に分けて報告する。(共同通信=帯向琢磨、川嶋大介、深江友樹)

2023年3月29日、東京都渋谷区で撮影  インタビューに応じる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長。奥は創設者の故・文鮮明氏と、妻の韓鶴子総裁の写真

 ▽「改革の方向性見えてきた」
 東京・渋谷の教団本部。「答えられることはお答えします」。簡単なあいさつの後、事前に伝えた質問項目に沿ってインタビューが始まった。取材を受けることにした理由は「これまでは教団改革を優先してきたが、改革の方向性が見えてきたため」だという。
 田中会長の言う教団改革とは(1)高額献金問題への対応、(2)正体隠しと指摘される伝道の在り方、(3)親が信者の宗教2世への環境整備、の3点に集約されるといい、インタビューではこのうち、高額献金問題について集中的に尋ねた。
 ▽「事実であれば申し訳ない」
 田中会長は「献金はノルマではなく信者の自由意思だ」と従来通りの考え方を述べた上で、不安や恐怖をあおり献金させているとの指摘については「事実だとすれば申し訳ないことだと思うし、徹底して改革していかなければならない」と話した。
 また、過度な献金になっていたかどうかは「しっかり精査しなければならない」とし、「家庭に対する配慮が足りていない部分もあったと思う」と一部責任を認める発言をした。こうしたことへの対応として、10万円以上の献金には借金ではないことを確認するため「献金確認書」の提出を求め、トラブルを防ぐための「献金受領証」を発行するなどガイドラインを作成したと主張。昨年12月に改革委員会のスタッフが全国の教会を回って教育したという。

 ▽韓国への送金再開は6月に判断
 この間、元信者らから返金依頼があった場合には「適切に対応している」とし、100人以上の返金に応じたとした。一方、全国統一教会被害対策弁護団から求められている集団交渉には「一人一人精査しているのでそれには応えられない」とし、押し問答となって時間がかかるので、返金を求める本人にとって不利益になっているのでは、との認識を示した。
 国内で集めた献金を韓国に送金していることについて「金額は言えないが、現在は送金を止めている」という。改革の浸透具合などを見ながら6月ごろに再開の可否を判断すると表明した。

 

2023年3月29日、東京都渋谷区で撮影 インタビューに応じる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長

 ▽山上被告の母親は今も信仰
 きっかけとなった銃撃事件の山上徹也被告に対してはどのように受け止めているのか。
 田中会長は「教団に対する恨みによって犯罪に至ったということはちょっと距離感を感じている」と、事件直後の記者会見で語ったのと同様の見解を述べる一方、「そこまで至った状況を抱えた家庭にしっかり向き合い切れていなかった」とも話した。
 山上被告の母親からは1億円の献金を受けたが、その後約10年かけて約5千万円返金したと説明。現在の状況については「相当心を痛めていると聞いている。まだ信仰を持ちつつ、教団の方と関わっている」と述べた。

 ▽実質的に「ノルマ」、異議相次ぐ
 【有識者の見方】こうした献金を巡る受け止めや主張について、ジャーナリストの鈴木エイト氏は「教団は上意下達の組織で、献金の目標は実質的な『ノルマ』だ。2009年のコンプライアンス宣言以降も正体隠しの伝道があり、教団側の『改革』という言葉は表層的なものだ」と指摘する。
 【有識者の見方】教団が返金交渉に応じていることについて、全国霊感商法対策弁護士連絡会の渡辺博弁護士は「今回の事件や報道によるもので、自主的に救済を図っているわけではない。集団交渉には応じていないのは、問題が表沙汰になり、解散命令請求の材料となってしまうことを恐れているのだろう」と分析した。
 ▽断絶方針「信者の迫害に」
 インタビューのテーマが、自民党による関係断絶方針に及ぶと、田中会長は「言いたいことがたくさんある」と述べた上で「遺憾の思い」「非常に衝撃的な出来事」との言葉を並べた。
 田中会長によると、教会として借りている建物の大家から「政府が関係断絶と言っているんだからおたくとは関係を持てない」と言われて契約解除を迫られたり、式典で使うお供え物の果物を売ってくれなくなったりした。
 また、会社を辞めざるを得なくなったり、離婚を迫られたりするなど、信者にとって「信仰の迫害」が起きているとし、「教団が受けた被害はあまりにも大きいと感じている」という。

 ▽支持表明「迷惑でしょう」
 そもそも政治とのつながりについてはどうか。最初は「何回も言っているように、友好団体が推進していることなので回答を差し控える」と話していたが、質問を重ねると徐々に口を開いた。「私たちのビジョンと一致している議員を応援するのが基本で、自分たちの主義・思想と一致する考えを持った人を応援するのは当たり前のこと」と強調。「自民党を何とかしようとか、政府に食い入ろうとかそういう発想で動いているわけではない」と述べた。
 統一地方選では「教団として何かする、応援することはない」と明言。一般的に宗教団体が政党や個人を応援することは問題ないとした上で「今は(支持を)表明されても迷惑でしょう」と自虐的に語った。

 ▽「今後も政治家とつながる」と懸念
 【有識者の見方】こうした政治とのつながりに対する主張について、渡辺弁護士は「元々政治家の支援は表だってやっていない。今後も陰に隠れていくらでもあり得る」と懸念を示した。鈴木氏は「統一地方選を機にインタビューに応じ、教団への批判を封じ込めるよう政治家をけん制する意図もあるのではないか」といぶかしんだ。
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 後編では、文化庁による質問権行使や昨年成立した不当寄付勧誘防止法への受け止めなどを紹介する。【後編はこちらから】
https://www.47news.jp/47reporters/9216471.html

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