旧統一教会会長が宣言、解散命令請求があれば「とことん裁判に臨む」 安倍元首相銃撃事件後初の個別インタビュー、教団トップが語ったこと(後編)

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長は共同通信のインタビューで、解散命令請求には徹底抗戦すると表明し、昨年成立した不当寄付勧誘防止法を巡り「強烈な偏見だ」と反発した場面もあった。インタビューは宗教2世に対する見解や記者会見中のファクス問題、自身の進退についても及んだ。(共同通信=帯向琢磨、川嶋大介、深江友樹)

2023年3月29日、東京都渋谷区で撮影 インタビューに応じる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長

 ▽「引くことはない」
 文化庁は昨年11月以降、宗教法人法に基づく質問権を5回行使し、解散命令請求を視野に入れた調査を進めている。田中会長は調査に「誠実に対応している」としつつ、同庁が裁判所への請求に踏み切った場合は「とことん裁判に臨む。引くことはない」と宣言した。
 教団としては質問権行使そのものを「違法」と認識していることから、田中会長は「質問に完全に答えない道もあった」と説明。「しかし無視するのもどうかということで、答えている」と不満をにじませた。
 一方、解散命令請求に至れば教団の存続にかかるだけに「そうならないことがベスト。良い情報があれば早く知りたい」と本音も漏れた。

 ▽長期戦の可能性も
 田中会長が徹底抗戦の構えを見せる背景には、調査から4カ月が過ぎても解散命令請求の可否を判断できていない文化庁の苦戦ぶりがある。ある関係者は「絶対に勝てる確信を得られるまでは請求に踏み切れない。長期戦になるかもしれない」との考えを示している。
 一方で文化庁内には「献金などに関してこれだけ多数の被害の訴えがあるのは旧統一教会くらいだ。証拠が積み上がれば請求は可能で、裁判に勝つことも不可能ではない」との声も。請求が実現するか、その場合裁判所はどう判断するのか、状況は予断を許さない。

 ▽マインドコントロールに怒り心頭
 不当寄付勧誘防止法は教団による被害を念頭に政府が急ごしらえで提出し、スピード成立した。田中会長は、同法は教団が進めてきた改革に一致するとして「私たちの献金に対する取り組みが障害を受けることはないと思っている。しっかり向き合って対応していく」と述べた。
 しかし、「懸念がある」と切り出すと、立法過程でマインドコントロールという言葉が議論の的となったことへの見解を一気にまくし立てた。「学術的に評価されているものではなく、(宗教や信仰を)理解できない心を整理するためにマインドコントロールという言葉を使う」。強い口調で「宗教に対する強烈な偏見だ。この考え方が(法律の)裏に潜んでいる」と訴えた。
 「まだ裁判で認められていない」「非常に危ない言語」と批判を重ねた上で、「これを読んで」と記者に一冊の本を差し出した。タイトルは「間違いだらけの『マインド・コントロール』論」。教団の友好団体幹部が書いたものだった。

 ▽新法の実効性に「疑義」
 【有識者の見方】上越教育大の塚田穂高准教授(宗教社会学)は「障害にならない」との発言について、「同法の実効性に疑義があることを教団側からも示す形となった」と指摘。田中会長の「マインドコントロール」への反論については、「そう指摘されるような実態があったことこそが重要で、学術的な評価に論点をずらしている」と批判した。

 ▽養子縁組や虐待対応については
 インタビューは他の項目にも及んだ。
 教団が「美しい伝統」と表現した養子縁組に関しては「報道され、厚生労働省と向き合う中でいろいろ考えさせられた」とする一方、「教団が示唆し主導しているわけではなく、お互いが養子縁組したいという気持ちであれば止める立場でもない」と従来通りの見解を繰り返した。
 厚労省は昨年末、宗教を背景とした児童虐待への対応方針をまとめた文書を公表。田中会長は「厚労省が全国にちゃんと通達しておくことは必要なこと」と受け止めつつ、「親の信仰に基づいて教育する権利は国際的には認められている。そこにまでメスが入ると大変なことだ。宗教家の視点も聞くべきで、今回の新法(不当寄付勧誘防止法)にも言えること」とけん制した。

本部が入るビルに付けられた「世界平和統一家庭連合」の文字=2022年9月、東京都渋谷区

 ▽ファクスで「相当叩かれた」
 親が信者の「宗教2世」は5万人を超えており、ここ数年で2世の状況把握を進めていたところに今回の問題が起きたという。苦しい思いをしている2世がいるとの指摘を受け、一定の教育を受けた「認定相談員」を全国の教会に設け、「ずいぶん2世たちの心は安定してきた」と述べた。
 教団側は昨年10月、両親が信者である小川さゆりさんが日本外国特派員協会で開いた記者会見当日、中止を求めるファクスを送付した。小川さんは会見中にファクスの事実を把握し、会見の続行と教団の解散を涙ながらに訴え、教団側は批判を浴びた。
 田中会長はファクスを「事前には知らなかった」と釈明し、協会側に怒りの矛先を向けた。「(事前に届いていたのに)いかにも今分かったかのように、記者会見中に持ってきた。だから、わが教団はひどい教団になった。私もびっくりした。相当叩かれた」
 協会側が本人と話し合う時間は十分にあったとして、「ファクスを送ったことは問題ないと思っている」と主張した。

 ▽「責任は会長が取るべき」と2世批判
 【当事者の見方】小川さんは「教団活動に参加していない2世も多い。第三者を入れずに内部だけで相談に乗りますよというのは、ずれている」と疑問視し、2世ら被害者への謝罪と返金を優先すべきだとした。ファクスについての発言については「あまりに非常識で信用できない。記者会見を止めようとした責任は、トップである会長が取るべきではないか」と非難した。

 ▽自身の進退、教団の今後は?
 5月7日には韓国で合同結婚式が予定されている。開催規模や方法、献金を求めることはこれまで通りとの見通しを説明。献金は日本に納めるため、韓国に持ち込まれることはないとした。
 インタビューの終盤、引責辞任を考えたことがないか問われると「もちろんあります」と即答。「全然固執する意思はない。役員会で辞めてくれと言われれば、明日にでも辞める」としつつ、「会長が辞めれば片付く問題ではない。教団改革を推進していけなければならない」と語った。

 ▽「まずは被害に向き合うべきだ」と識者
 【有識者の見方】全体を通して、塚田准教授は「田中会長の発言には強い『被害者』意識がにじんでいるが、発端は教団側が引き起こしてきた問題だ」と批判する。教団は、「改革」をアピールする前に、過去の被害の救済や回復にきちんと向き合うべきだと指摘した。
 【前編はこちらから】https://www.47news.jp/47reporters/9216281.html

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