デマ飛び交い青年恐怖…警察署へ逃げるも自警団が引きずり出し殺害 関東大震災の埼玉で悲劇「繰り返さぬ」

朗読劇を披露する高校生たち=皆野町のMahora稲穂山・森のホール

 秩父ユネスコ協会主催の春の平和祭が、埼玉県皆野町のMahora稲穂山・森のホールで開催された。100年前の1923年9月に起きた関東大震災時の朝鮮人虐殺を題材に、高校生の朗読劇や、フォークシンガー中川五郎さん(73)のコンサートが行われ、会場に集まった来場者たちは関東大震災時の出来事を想像しながら、「二度とこのような惨事を繰り返してはいけない」と、差別のない社会への思いを共有した。

 朗読劇は、震災当時に寄居町で殺害された朝鮮人青年、具学永(ク・ハギョン)さんを描いた絵本「飴売り具学永」(金鐘洙著)をもとに、県立秩父農工科学高2年の秋池柚さんが脚本を書いた。作品タイトルは「約束は今も」。女子高校生アカネが100年前にタイムスリップしたという設定で物語が始まる。

 震災時、同町では、「朝鮮人が放火している」などのデマが飛び交い、大勢の朝鮮人が殺害された。具さんは寄居署に避難したが、自警団に引きずり出され、殺害された。事件を目の当たりにしたアカネは、「現代の私たちに無関係な話ではない。まずはこの事件を多くの人が知ることが重要」と痛感した。

 アカネ役を演じた学生の高比良あかりさん(18)は「脚本を読んだ時は気持ちが重たくなったが、みんなに伝えなければいけないという使命感がわいた」と話した。具さん役の秩父農工科高生坂本有杏さん(16)は「恐怖におびえながら生活を送る、具さんの心情を理解できた」としみじみ語った。

 朗読劇後は、訳詞家、小説家、翻訳家など多彩な肩書きを持つ中川さんが、現代に訴えかけるバラッド(物語歌)を熱唱。中川さんは「高校生たちの迫真の朗読に心を打たれた」と語り、関東大震災直後に千葉県福田村(現野田市)で薬売り行商人が自警団に襲われた「福田村事件」の曲「1923年福田村の虐殺」などを披露した。

バラッドを熱唱する中川五郎さん

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