「大切な妹の命を奪った原爆の悲惨さを・・・」父(95)の体験 語り継ぐ “家族伝承者” たち 活動へ

広島市は、原爆の体験を被爆者の子や孫が語り継ぐ「家族伝承者」を2022年から養成しています。1期生7人が研修を終え、正式に証言活動を始めます。

7日、原爆資料館に集まったのは、自らの体験を証言する「被爆者」と、被爆者に代わって語り継ぐ「伝承者」たちです。広島平和文化センターから委嘱状が手渡されました。

証言活動をする被爆者は80から95歳までの33人。伝承者は196人となりました。

そして今回、新たに委嘱されたのが、被爆者の子や孫たちが原爆の体験を語り継ぐ「家族伝承者」です。広島市が去年から始めた制度で、研修を終えた1期生7人が初の家族伝承者として今年度から証言活動を開始します。広島市の 細川洋 さんもその1人です。

父の被爆体験を伝える家族伝承者、細川洋(63)さんは、「あの爆弾の下でどんな目に遭うのか、想像してもらえるような話をしていきたい」と話しました。

「13歳の妹を亡くし 自分だけ生き残った」父(95)の体験を受け継ぐ

高校の国語の教員だった細川さん。家族伝承者の研修を受けたのは、95歳になる父・浩史さんの体験を受け継ぎたいという思いからでした。

証言活動をする父 浩史さん(2013年映像)
「逃れていく人はみんな、血まみれですからね。血の手のあとがたくさんついていたのを覚えています」

浩史さんは17歳のとき、爆心地から1.3キロの広島逓信局で被爆しました。13歳だった妹は建物疎開の作業中に被爆して亡くなりました。

形見となった妹の制服を原爆資料館に寄贈し、積極的に証言活動をしていた父の姿を、洋さんはずっと見てきました。

父の被爆体験を語る 家族伝承者 細川洋 さん
「数十年、一緒に過ごした家族でないと知り得ないこと、父の性格やくせ、しゃべっている空白に込めた思いも感じることができる。これは家族伝承者ならではなのかと思う」

研修期間は1年から2年で、家族から聞き取った体験を原稿に仕上げます。ただし、亡くなった被爆者の証言を受け継ぐことはできず、伝承できるのはあくまでも存命の被爆者に実際に話を聞ける場合のみ。途中で被爆者が亡くなった場合は、研修が打ち切られることもあります。

父の被爆体験を語る 家族伝承者 細川洋 さん
「もしかしたらわたしも父が亡くなっていたら、この場でこうして委嘱書を受け取ることができなかったかもしれない。研修を終えることができなかったかもしれない」

「大切な妹を奪った原爆の悲惨さ語り継いで」父の思いを受け止めて

父・浩史さんは、今は施設で暮らしています。

洋さん「お父さんの被爆体験を引き継ぐという許可証をもらったけんね」
浩史さん「そうか。驚いた、驚いた」

浩史さんは、洋さんに「大切な妹を奪った原爆の悲惨さを語り継いでほしい」と話しました。

父 浩史さん
「後継者ができて安心した」

父の被爆体験を語る 家族伝承者 細川洋 さん
「(父の妹の)命が13歳で突然、奪われたということと、それをずっと父は自分だけ生き残ったという負い目を感じながら生きてきたのだろう」

父の思いをしっかり受け止め、語り続けるつもりです。

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