感謝込め「天命釜」製作 佐野の鋳物師・若林さん 沖縄の恩人の90歳祝いに

茶席で使われる若林さん製作の天命釜(若林さん提供)

 佐野市大祝町の天命鋳物師若林美延(わかばやしみのぶ)さん(32)が、沖縄県の恩人の90歳の回顧展のための天命釜を製作し、現地での茶席で使われ多くの参加者を魅了した。天命釜の特徴である荒々しさを生かしながらも、敬虔(けいけん)なクリスチャンである恩人を思い、形に十字架をあしらった。若林さんは「今の自分の持つ技術を全て投じた。製作させていただいたことに感謝している」と笑顔を見せる。

 若林さんは10代後半から、沖縄県の牧師運天康正(うんてんやすまさ)さんと、夫人の同じく牧師で茶華道家でもある君子(きみこ)さんの元に寄宿していた。現地で魅了された陶芸の修業をする中で、肉親にも勝る手厚いサポートを受けたという。

 その後、家業の天命鋳物師としての道を歩むことを決意し、修業を積むため京都に移り、著名な京釜の師の下で学んだ。8年間に及ぶ修練を経て30歳の時に故郷に戻った。現在、父親の秀真(ほつま)さんの指導を受けながら、6代目として精進している。

 そんな中で昨年、沖縄で康正さんの90歳の記念回顧展の茶席で使用する茶釜の製作を依頼された。まだ未熟との迷いもあったというが、「現在の自分にできる最高の茶釜を」と奮起し、構想も含め1年間をかけ作り上げた。

 完成した茶釜は高さ約30センチ、直径が約15センチの円筒の形状で、天命釜の素朴で力強い特徴に加えて、上部を十字架のデザインとした。「十字九輪釜(じゅうじくりんがま)」と名付け、運天夫妻への感謝の思いを込めた。

 3月下旬に現地のホテルで茶席が催され無事、大役を果たすことができた。若林さんは「自分にとっても、茶釜として使ってもらえる初めての本格的な作品と言える。何より恩人の役に立てたことがうれしい」と話している。

恩人の記念回顧展の茶席のための天命釜を製作した若林さん

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