古橋の記録更新は「すごく嬉しい」 前欧州最多得点者・和久井秀俊さんに聞く「欧州でゴールを決める難しさ」

セルティックFW古橋亨梧が大記録を更新した。8日に開催されたレンジャースとのオールドファームで、2得点を挙げて3-2で勝利の立役者となった。

これでリーグ戦22ゴール(得点ランキング首位)となり、1シーズンでの欧州1部リーグ日本人最多得点記録を樹立した。これまで2014年シーズンにエストニア1部で和久井秀俊さんが記録した21得点が日本人最多だった。

日本人ストライカーが欧州リーグで得点を重ねることは非常に難しいといわれている。

オランダ1部日本人最多得点記録を持つ元日本代表のハーフナー・マイクさんは

「海外のチームの監督はゴールを求めるので。フォワードは点を取る。日本と考え方が全然違います。日本人の選手は献身的ですごく頑張ります。色々できるけど、点はそこまで取れないというか。守備もこなしながら日本人の選手は海外に比べて技術のレベルはすごく高いので、そういうつなぎ役として使われやすい」

と、Qolyの単独インタビューで日本人ストライカーが2列目で起用される傾向を考察している。

そこで、約9年間に渡って欧州1部リーグ日本人最多得点記録を保持していた和久井秀俊さんに日本人選手が欧州で得点を取るための秘訣などを聞いた。

写真中央が和久井さん

――古橋が自身のリーグ戦得点記録を更新したことについて

(自身が記録を打ち立てたことは)日本人としてはうれしい気持ちはありますけど、当時も記録を意識していなかったです。

なので、その当時(記録を樹立した2014年)からおそらく1、2年後ぐらいに結果的に(記録を樹立したことが)そうなったと聞いていて。それからいろいろなところで取り上げていただいて認識しました。

その前提でそれ(記録)を超える人が早く現れてほしい気持ちは常にあった。特に今年は注目して拝見させていただいて、(古橋が自身の記録を上回り)すごくうれしいですね。

――エストニア1部で21得点。当時所属していたノーメ・カリュでは主にどのポジションを任されて得点記録を達成しましたか。

当時はおそらく左サイドとトップ下をやっていたと思います。

――得点を量産していた当時、周囲の反応はいかがでしたか。

特に変わらないですね。最初のころは一桁後半に得点を決めたり、2桁に入っていく段階では期待やプレッシャーはあった記憶があります。

得点を重ねていくとチームとしての求められる役割が増えていきましたけど、それを超えてくる時期がありました。

2桁に入った後半ぐらいから(プレッシャーなどが)無くなっていく。どちらかというと得点よりかは、それ(プレー)自体を楽しんでいくようなイメージでやっていたので。

周りの環境も含めて、あまり(得点を)意識しない状況になっていました。

その境地に立った者にしか見えない景色があるのだろう。和久井さんは当時、得点を挙げることよりもその状況を楽しんでいた。古橋もまたセルティックTVのインタビューで「本当に楽しくサッカーをやっています」と答えていた。プレッシャーから解放された先にあるものは楽しさなのだろう。記録は後からついてくるといった言葉があるように、得点を重ねる選手はいかなる状況でも楽しむメンタリティが必要不可欠なのかもしれない。

――なぜ21得点とゴールを量産できたのでしょうか。

現役時代は決して上手くなかったですし、ストライカーではありませんでした。経歴としてもいいものを持っていたわけではないですし、意識として大事にしていたのは、事前にデータを取って、分析することが僕の中での強みなので。

そこはすごく意識してチームを選んだり、タスク選びや試合前の準備などが特に顕著に出た年(2014年シーズン)だったと感じています。

――データの解析などは相手チームの守備の綻びや特徴など失点パターンの分析などでしょうか。

それも試合前にはあるんですけど、どっちかっていうとリーグや、全体を見ていましたね。例えば、どのリーグを見ても基本的に(得点ランキングで)(リーグの主催国である)自国の選手がトップスコアラーになることはほとんどないんですよ。

基本的にそれ以外の国の選手が(得点ランキング上位に)名を連ねていて、ほとんどの国ではもう50%から70%ぐらい他国の選手がスコアラー(上位)になっている。

ストライカーに求められているものとか、そのリーグでなぜ自国の選手にストライカーがいない点は、その当時から見ていました。その辺を最初から突き詰めて研究していました。

――具体的にどういうところを突き詰めたのですか。

例えばエストニアの場合でいうと、得点王を取ったロシア人選手がいました。彼なんかは国内リーグとカップ戦を含めて40点ぐらいを取っていたんですよね(2014年シーズンにロシア人FWエヴゲーニイ・カバエフがリーグ戦36得点で得点王を獲得)。

それを見ていた部分もあったり、それ以外の国もですけど、基本的にストライカーはサッカーの中でも特に違いを見せられる選手でなきゃいけない。

いわゆる自国の選手は一定の身長だったり、体格だったり、持っている気質だったりとか性格的なものもあって、一般的な平均値があります。

それ(一般的な平均値)を超えたときに初めて(他と)違ったプレーが出て、数字として顕著に出るのがストライカーなのかなと思っています。

それと同時にリーグ、チームや大会によってどういう選手が得点を挙げられるのか。その当時の選手に関しては結構ボックス内でのプレーが多かったのと、後はボールを奪取するエリアとかも結構決まったところが多かった。

どこまで守備しに行くのか、受ける位置だったり、ボックス内に入るまでのタイミングだったりとか。その辺は意識していたかなと思います。

当時自分が分析できることって言ったらボールを自分で奪って得点に繋げることもですし、どこへ行ったらより得点が奪いやすいか。

どの時間帯がいいか。なるべく(これらの要素を)取れるようにしていました。非常に重要視していました。

海外のリーグで現地人と同じ平均値であれば、突出した活躍は難しいという。スコットランド人にないスピードと抜け出しの感覚を備える古橋と、徹底した分析を基に得点を量産した和久井さんは現地人の平均値以上の強みを発揮できたから得点を量産できた。

プロのスカウトの基準に選手が如何なるときでもアベレージ以上の強みを出せているかを評価する場合がある。現地人の基準を上回る突出した強みが活躍のヒントになりそうだ。

――欧州で日本人ストライカーが点を取る難しさがよく話題になりますが、和久井さん視点でどこが難しかったですか。

得点を決めるという意味で一つ言えることがあるとしたら、(日本人選手は欧州リーグの)自国の選手じゃないだけに可能性がたくさんあるんですけど。ただそこに至らない点があって、その至らない点は(チーム内の)信頼の部分になってくると思います。

個人の能力とかスキルで得点を取れる選手は日本人にいっぱいいると思っています。1桁後半から2桁の後半に向かっていくフェーズの中では、チームの立ち位置がかなり影響を受けてくるかなと思います。

――日本人ストライカーが欧州で点を取るために必要な具体的な技術と条件など具体的に教えてください。

僕が長年やってきた中で感じた部分というところでいえば、現地人のようにならないっていうのが重要な点と思っています。

現地の選手になろうとすれば、なろうとするほど点数が上げにくくなるのはあるかなと思います。得点ランキング上位に入っている選手は自国の選手じゃないので、現地の選手が持っている気質だったりとか、(現地の)サッカーの環境の中でさらに優れた選手が得点王になっていると思うんですよね。

自国の選手の中でも違いのある選手が、トップスコアラーに名を連ねている。

例えばドイツやスペインでもそうですけど、どのリーグに行っても現地の選手と同じようなプレーヤーになることは避けた方がいい。むしろそうなると、スコアラーから離れていく。自分のオプションを出すというのがまず一つかなと思います

――なるほど、現地人プレーヤーと同化すると特徴や強みを出しにくくなりそうですね。

あくまでストライカーとしてトップスコアラーに名を連ねていく前提とするならば、そこはすごく重要な点かなと思いました。それは調べているときにすごく感じました。

実際にプレーしていく中で感じたのは、チームが苦しくなったときに「この選手に、最後にボールを預ければゴールにつなげてくれる」という信用や信頼が、その最後の15点とか2桁台のフェーズになってくると思います。

そういった意味ではコミュニケーション能力とかチームワークという部分の要素は、パーソナリティーの部分が出てくると思う。そういった意味でパーソナリティーの部分と、自分らしさ、日本人らしさを重要視した方が良くて。

一般的に言われているエゴイストみたいなところは、フェーズとして2桁いけるか、いけないかになっちゃうんじゃないかなと思います。

現地人プレーヤーと同化しない曲げない力、信用を勝ち取る人間性、そして自分らしさを大切にして強みを出す。

これらの要素が得点を取る上で重要と和久井さんは考察した。実際古橋は上記の条件が全て当てはまっているように思える。欧州1部リーグで20得点以上を記録した日本人選手は和久井さんと古橋しかいないが、上記の条件に当てはまるトップスコアラーは世界を見渡せば数多くいる。

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和久井さんから教えていただいた要素は、日本人ストライカーが海外で生き残る鍵になりそうだ。

和久井さんはプロサッカー選手引退後に日本へ帰国し、ドイツサッカーのメソッドを指導するサッカースクールWFC Welt Football Club(ヴェルツFC)を創設。

出身地の栃木県を中心に全国(埼玉県、東京都、福岡県)で展開している。ご興味がある方はこちらのリンクへ。

【ヴェルツFC公式サイト】

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