最悪の黄砂

 昔、日本では中国を唐土(もろこし)と呼んだ。俳人の長谷川櫂(かい)さんに一句がある。〈唐土の国のかけらの降りしきる〉。古来、春になると広大な大陸から黄砂が飛んでくる。「唐土」としたのは、長い時の流れを表すためかもしれない▲黄土地帯の砂が強風で巻き上げられ、偏西風に乗ってやってくる。その現象は昔から同じだとしても、今の飛散は「最悪レベル」とまで呼ばれている▲中国では所によって、数メートル先も見通せず、車は砂嵐から逃げ、人はマスクどころかゴーグルを着ける姿が報じられていた。日本列島がこれほどすっぽり覆われたのも珍しい▲おとといは「春がすみ」というには情趣に欠けた、どんよりかすんだ景色が広がった。筆者もそうだが、黄砂が体内に入ると花粉症が再発、悪化することも多いという。ひとまずほぼ収まったが、中国では週末にかけてまた、飛散が予想されるらしい▲自然現象とされてきた黄砂だが、近年はその回数も範囲も“被害”の程もすさまじい。確かなことは知れないが、森林の減少、砂漠の拡大、空を舞うときの汚染物質の付着が原因と一説にいう▲だとすれば「国のかけら」というだけでなく「人為のかけら」と呼ぶのがふさわしい。脱マスクの歩みまでも足踏みさせる厄介な飛来物は、「かけら」というには重すぎる。(徹)

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