幻の記念碑

 幕末維新期の長崎の女性商人、大浦慶が、ここ数年、文学や漫画の世界で脚光を浴びている▲直木賞作家の朝井まかてさんが小説「グッドバイ」で、いちずに「商法の道」に生きた姿を描いた。手塚治虫文化賞マンガ大賞を受けた高浜寛さんの「ニュクスの角灯(らんたん)」「扇島歳時記」では重要な脇役として大活躍する▲いち早く日本茶を輸出して富を築いた慶の功績は長崎ではよく知られているが、これらの作品で全国的な知名度も上がったはず。政治経済をはじめ、あらゆる分野で女性の活躍が期待される中、先駆者として今後さらに注目を浴びるだろう▲長崎外国語大新長崎学研究センター客員研究員の石田孝さん(76)が研究成果をまとめた冊子「新説大浦慶女伝 お慶さんの後半生記」に興味深い“新事実”があった。慶の没後、明治中期に長崎と東京で記念碑建立が計画されていたという▲長崎では、慶の養子大浦重治が長崎公園(上西山町)の上方付近に建てようと市へ出願。東京では、全国の茶実業家有志が寄付を募り上野公園に建立しようとしていた▲幻に終わった碑は青銅製で、文は歴史学者の重野安繹(やすつぐ)や首相を務めた松方正義が書く立派なものだったらしい。もし実現していれば慶をしのぶ格好のスポットとなっていたはずで、何とも惜しい気がする。

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