企業型DCで考えたいマッチング拠出とiDeCoの併用、選択のポイントをFPが解説

企業型確定拠出年金(DC)が導入されている会社も多くなっていますが、特に春はさまざまな変更の申請があったり、転入・転出もあったりと忙しい時期でもあります。今回は、特に質問も多いマッチング拠出とiDeCo併用における選択のポイントを解説します。


マッチング拠出の申し込み

マッチング拠出とは、企業型DCにおいて会社から拠出される掛金の上乗せとして、加入者自らが掛金を拠出する仕組みです。申し出をすると、掛金が給与から天引きされ、会社拠出の掛金と合算して、加入者の確定拠出年金口座に入金されます。その後は、通常のDCとして運用が継続します。

この申し出も、春に行うという会社も多いようです。会社によっては、社内のイントラネットから手続きを行うとしているところや、用紙が回ってきて申請するなど色々です。新規でマッチング拠出を始める、マッチング拠出の掛金を変更する、iDeCo併用希望によりマッチング拠出を停止するなどの手続きがあります。

マッチング拠出の掛金は、毎月の拠出時に給与の課税部分から切り離されるので、税金がかからなくなります。同時に翌年の住民税の支払いも少なくなります。つまりマッチング拠出による税制メリットは、iDeCoと同等です。

マッチング拠出は、あくまでも会社で設けられたDCの制度に上乗せ拠出することですから、選べる運用商品はこれまで通りのDCの運用商品です。そのため新たな掛金について運用商品を指定する必要はなく、今まで同様の配分で運用されます。

もし、掛金を増額するにあたり、買い付けする運用商品を変更したい場合は、配分変更の手続きを行います。この手続きには、毎月の締め切りがありますから、ご自身でマイページから変更を行います。

マッチング拠出の注意点

マッチング拠出の注意点は、掛金が企業拠出の額を上回れないという点です。例えば、会社からの掛金が10,000円であれば、それ以上のマッチング拠出はできません。もしそれ以上の掛金拠出を希望する場合、iDeCo併用が選択肢です。なぜならばiDeCoの場合、会社の掛金額にかかわらず20,000円までの掛金を拠出できるからです。

もし会社の掛金が20,000円であれば、マッチング拠出は20,000円まで拠出できます。会社の掛金が35,000円であれば、マッチング拠出の上限は35,000円ではなく20,000円が上限となります。なぜならば、DC以外の企業年金がない会社の場合、会社掛金とマッチング拠出の掛金合計の上限額は55,000円と定められているからです。

なお、DC以外の企業年金がある場合の会社掛金とマッチング拠出掛金合計の上限額は27,500円と定められています。掛金が昇給などで変わる会社の場合、それによりマッチング拠出の掛金の変更も必要になることがあります。

マッチング拠出のもう一つの注意点は転職時です。DCは会社の制度ですから、会社を辞める時は、そこにある資金をすべて出さなければなりません。60歳以降であれば、老齢給付金として受け取ることができますが、それ以前であれば手元に資金を引き出すことができず、どこか違う制度、具体的には次に勤める会社のDC、あるいはiDeCo、または企業年金連合会へ移換しなければなりません。いずれにしても、いったん資金をすべて現金化するので、投資を中断することになります。

iDeCo併用を選ぶポイントと注意点

2022年10月の制度改正により、DCに加入している方であっても、ご自身の希望によりiDeCoに併用加入できるようになりました。会社にDC以外の企業年金がない場合、iDeCoの掛金は上限20,000円かつ会社のDC掛金との合計が55,000円以内であること、会社にDC以外の企業年金がある場合、iDeCoの掛金は上限12,000円かつ会社のDC掛金との合計が27,500円以内であることが条件です。両者共にiDeCoの加入掛金下限は5,000円です。

DC加入者で会社にマッチング拠出がある場合は、それとの比較でiDeCo併用にメリットがあるかどうかを考えます。会社にマッチング拠出がない場合は、将来に向けた資産形成のためにiDeCo併用を考えます。

iDeCo併用の魅力は、DCと異なり加入者自身で運用商品を選べるという点です。例えば日本の株式に投資をするインデックスファンドの信託報酬は、0.143%、0.154%という投資信託がiDeCoでは多数採用されています。S&P 500あるいは先進国株式に投資をするインデックスファンドは、0.09680%または0.10230%という水準です。

一方DCの場合、ベンチマークが同じであっても信託報酬がそこまで低くない場合も多いです。信託報酬は安ければいいという単純な話ではありませんが、それでもインデックスファンドを選ぶのであれば、コストは意識したいところです。これまでDC加入者は、会社が選定する運用商品しか選択肢がありませんが、iDeCo併用ができるようになったことにより、運用商品の幅が広がった点は大きなメリットだと思います。

更にiDeCoには、人気のアクティブファンドが採用されているケースが多いです。アクティブファンドの選定は難しいといわれますが、長期運用に適していると金融庁がつみたてNISAに採用しているアクティブファンドが、iDeCoにも採用されていることが多いので参考になります。上記インデックスファンド同様、DCでは自分の好きなファンドに投資ができないことも多いのですが、iDeCoはもっと自分の意思で運用商品を選ぶことができます。

またiDeCoは個人の口座ですから、転職をしたとしても運用中の資産を売却し移換をするといった、運用の中断をする必要はありません。転職先については、運営管理機関に届ける必要がありますし、その会社の企業年金の状態によっては掛金上限額が変わることもありますが、運用商品を強制的に売却させられるということはあり得ません。投資の継続性はやはり大きなメリットと考えます。

これまでiDeCo併用の際に、個人で負担しなければならない手数料への注意喚起が行われていましたが、毎月の運営管理機関費用を0円と抑える金融機関も増えてきました。もちろん、国民年金基金連合会に対して負担する月々171円はどこの金融機関を選んでもかかりますし、iDeCoを始める際の2,829円の負担も相変わらずありますが、前述した中断されない長期資産形成メリットを考えると、iDeCo併用に魅力を見いだすという方も増えているのではないかと考えます。

iDeCo併用は、年間を通じていつでも始めることはできますが、会社によっては申し出期間を制限しているところもあるようです。特にマッチング拠出かiDeCo併用かは、いずれか一方しか選べないため、マッチング拠出をやめてiDeCoにしたいという場合は、会社のルールを事前にチェックする必要があります。気がついたら年に1回の締め切りが過ぎていた、というお話もよく聞きます。

会社によっては、iDeCoの掛金を、給与天引きとするところもあります。天引きであっても自分の指定口座からの掛金引き落としであっても、税金のメリットは全く変わりませんが、後者の場合は年末調整が必要です。

iDeCoの掛金を給与天引きとすると、前段のマッチング拠出の際に説明したように、あらかじめ給与からその金額を課税対象から外す処理が行われるので、自動的に税金のメリットが受けられます。会社が手続きを代行してくれるので、国民年金基金連合会から発行される「小規模企業共済等掛金控除の証明書」も発行されません。

一方、指定口座から掛金の引き落としが行われる場合、iDeCoの税金に関して会社は何も手続きを行いませんので、年末調整の際に発行された「小規模企業共済等掛金控除の証明書」を会社に提出しないと、所得控除が適用されず、ご自身で確定申告を行うなど面倒が生じます。

iDeCo併用の際、iDeCoの掛金変更時にも注意が必要です。iDeCoは年に1回任意のタイミングで掛金の変更が可能ですが、DCとの併用の場合は会社への届け出も遅滞なくする必要があります。iDeCoの掛金が給与天引きとなっている場合はもちろんですが、個人の口座からの引き落としの場合でも、それによって月の上限額を超えるようなことにならないようチェックが入るからです。万が一超過した場合はDCが優先され、iDeCoの掛金は返金されますが、それでも手間は未然に防ぎたいものです。

先ほど最近は運営管理機関手数料が0円という金融機関が増えてきたと言いましたが、それでもiDeCoの掛金が小さい場合はやはり注意が必要です。iDeCoの最低掛金は5, 000円ですが、これに対し171円は3.42%に相当します。20,000円まで掛金が拡大すると、同じ171円でも負担割合は0.855%です。

最近は、新卒の方も就職前からiDeCoをしていたという方も増えてきました。また転職によりDCのある会社に就職し、ご自身のiDeCoをどうしたらいいのかというご質問をいただくことも少なくありません。

iDeCoは、DCと並行して継続することが可能です。その上で、DCのマッチングを選べばiDeCoへ掛金を拠出することができなくなりますし、DCの掛金が上限に達しているような場合もiDeCoへ掛金を拠出することができなくなります。

その際も、運用指図者として金融機関には手数料を払い続けるので、あまり運用継続のメリットがないと判断される場合は、DCに資産を移換することもできます。いずれにしても、DCとiDeCoそれぞれを理解した上での総合的な判断が必要です。

確定拠出年金は原則、1人一口座しか認められないのですが、例外的にDCとiDeCoだけは両方持つことが可能です。これは将来老齢給付をそれぞれから受け取れるという使い勝手の良さにもつながります。複雑ではありますが、適時専門家に相談しながらより良い選択をされるといいでしょう。

定期的な見直しを

資産形成に回せるお金は有限である以上、マッチング拠出なのかiDeCo併用なのかは、しっかりと見極めたいところです。またNISAの拡大を受け、資金を投じる先により、将来が変わる可能性が高まってきました。とはいえ、特に会社の制度を絡ませての資産運用は、いろいろ制約もありますし、会社への手続きの締め切りが設定されていることが多いです。すると、忙しさに追い立てられ、実行すべきことを後回しにしてしまう方も少なくありません。

でも、ご自身の将来を支える資産形成ですから、毎回時間切れとならないよう適切な行動は起こしたいものです。ぜひ定期的に自分の資産全体を見直す時間を設け、次のアクションを具体的に考えて備えておくようにしましょう。

常に自分のするべきことを考えていれば、行動も容易に起こせるはずです。運用商品の見直し、掛金の設定など、意識してみるといいでしょう。

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