「まさか亡くなるなんて」姉のメール見返す 京都・亀岡の事故11年 今も携帯に残る「妊婦服持ってる?」

幸姫さんとのメールのやりとりが残り、妹が今も大切に持っている携帯電話

 <明日朝から仕事やねんけど、休憩中行ってもいいやろか(2011年11月)>

 <妊婦服的なんてまだ持ってる?(12年1月)>

 姉から届いた数々のメール。妹は、10年以上前に使っていた携帯電話を今も時々充電しては内容を見返す。何げないやりとり、ピースサインで収まる姉妹の写真…。温厚で優しかった亡き姉との思い出は、唯一ここに、あの時のまま残っている。

 12年4月23日朝、妊娠7カ月だった松村幸姫さん=当時(26)=は、子どもの集団登校に付き添っている途中、京都府亀岡市の府道で無免許の少年が運転する車にはねられ犠牲になった。

 京都府内に住む幸姫さんの妹(35)は、「まさか亡くなるなんて思ってもいなかった」とうつむく。あの日のことはいつも頭の片隅から離れない。「ああしていればとか、こう言っておけば亡くならずにすんだかもって後悔ばかりが残る」と胸の内を明かす。

 兄の中江龍生さん(39)と幸姫さんの3きょうだい。おっとりとした性格の幸姫さんは「ふきたん」の愛称で、兄と妹の聞き役に回ることが多かった。子どもに関する相談はいつも2歳上の姉を頼り、幸姫さんも仕事の休憩中に遊びに来てくれた。事故の約3カ月前には、おなかの膨らみが目立つようになった幸姫さんから、妊婦用の服を貸してほしいとのメールが入っていた。「上の子とは少し年が離れていたから、服を処分してしまったんかな」と思い返す。

 事故当時幼かった長男は高校1年生、長女は中学2年生になった。会話には、たびたび幸姫さんが登場する。「ふきたんはどんな人やったん?」「ママより優しそう」。事故についても、子どもたちから聞かれると正直に話してきた。長男は来年バイクの免許が取得できる年齢になるが、早く取りたがる友人たちに比べ、慎重に考えているように見えるという。

 4月23日、事故発生から11年を迎える。

 妹にとっては「命日として大事な日であり、一番嫌いな日」だ。今でも、時刻や音楽の再生時間などで「4」「2」「3」という数字の並びを見ると気持ちが重くなる。「数字なんてどうでもいいのに『ああ、また見てしまった』と。敏感になりすぎてるのかもしれない」。喪失感はこの先も消えることはないだろう。大きな瞳から涙が流れた。

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