暴力では変わらない

 年齢が足りずに昨年の参院選に立候補できなかったことが不服で、裁判を起こしていたのだという。訴訟の準備書面の中では、故安倍晋三首相の「国葬」にも言及し、内閣の姿勢に強く反発していたそうだ▲和歌山県内で選挙の応援演説に臨んだ岸田文雄首相が容疑者の自作とみられる爆発物で襲われた事件で、容疑者の男性の“背景”が語られ始めている。政権に対する強い不満があったらしい▲その理屈が、独りよがりで身勝手に見えても、自身の中では十分に正当性を備えた主張で、腹に据えかねる怒りなのだろう。しかし、その思いと、彼が選んだ行動の間にはとんでもない飛躍がある▲政治や政権への不満を爆発物という暴力に託して首相や世の中に投げつけても何も生まれないし、社会は何も変わらない。そのことは何度も確認しておかねばならない▲短絡と思い込みによって増殖した感情が行き場を失って暴発してしまう-。社会の側にも何か原因はあるのだろうか。容疑者がこの先、自分の言葉で事件を語った時、何かを理解してあげられるだろうか。自信はない▲ただ、結論はシンプルだ。暴力は許さないし、暴力には屈しない。そして、対話の可能性をどこまでも諦めない。私たちにできることはあまり多くなく、でも、割とはっきりしている。(智)

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