科学者たちの訴えに向き合い、政府は真摯(しんし)に対話と議論を尽くすべきである。
日本学術会議は総会で、政府に対し会員選考方法の見直しを盛り込んだ学術会議法改正案の今国会への提出を思いとどまり、開かれた協議の場を設けるよう求める「勧告」を決めた。
改正案は、外部の有識者による諮問委員会を設け、会員選考時にその意見を聞き、尊重するよう定めるものだ。
学術会議側は「独立性が損なわれる恐れがある」と反対している。同法に基づく最も強い意思表明であり、13年ぶりとなる勧告によって拒絶を明確にした。
懸念を置き去りにした政府の拙速なごり押しは、政治と学術界の溝を深めるだけではないか。
学術会議側が「一方的だ」と反発を強めるのも理由がある。政府の改正案が具体的に示されたのは、総会初日の17日だった。
諮問委の委員5人は、首相が議長を務める総合科学技術・イノベーション会議内で選ばれた有識者議員らと協議し、学術会議会長が任命するという。
会員からは、諮問委を通じて政府の意に沿わない会員が選ばれにくくなり、組織の根本に関わるとの批判が相次いだ。当事者を蚊帳の外に置く政府の進め方が、不信感を増している。
さらに政府案は、法改正から3年と6年をめどに政府が学術会議の運営を検証し「国の機関以外にする」ことを含め見直すとした。これでは脅しではないか。
学術会議の梶田隆章会長は「日本の学術の終わりの始まりにしてはならない」と訴える。勧告という最終手段に出たのは、なし崩しに政府の介入に従属させられかねないという危機感だろう。
政府は「人事に介入する意図はない。透明性確保が必要だ」とする。だが、この問題は3年前の菅義偉前首相による新会員任命拒否が発端だ。菅氏は理由を示さず、岸田文雄首相も「手続きは終了した」と正面から答えていない。組織見直しは議論のすり替えであり、政府が透明性を欠く介入を撤回し、独立性を担保するのが筋だ。
与党などで「国が金を出す以上口も出す」との意見も根強い。だが、各国では科学者自らが研究業績を踏まえ会員を構成するのが一般的である。政府の追認機関をつくるのなら、健全な科学の発展を損ないかねない。客観的な立場から幅広い知見と自由な議論を集めてこそ、社会課題を解決し、国民生活に資する役割を果たせよう。