社説:芸能界の性被害 業界を挙げて根絶せよ

 芸能界で深刻な性被害やハラスメントの告発が続いている。

 フリーランスが多く、人間関係で仕事が決まるなど契約関係があいまいで、上下関係も強い業界である。華やかな表舞台とは裏腹の闇を感じざるを得ない。

 メディアも含めた業界が、切実な訴えの声を黙殺することがあってはならない。外部の目も入れて事実関係を調べ、再発防止に向けた手だてを講じるべきだ。

 大手芸能プロダクション「ジャニーズ事務所」に所属していた男性歌手が、創業者のジャニー喜多川氏(2019年に死去)から性被害を受けていたと証言した。

 実名で記者会見した男性によると、15歳だった12年から4年間に15~20回ほど、喜多川氏のマンションやホテルで性被害に遭ったと語った。同じ部屋で他の少年が被害を受けるのも見たという。

 今年3月には、英BBC放送も男性とは別の元所属タレントの証言を報じた。

 会見を受け、同事務所は法令順守の徹底やガバナンス体制の強化などを進めるとのコメントを出した。事実関係に触れず、まるでひとごとのようである。

 喜多川氏を巡っては1999年に週刊文春が所属タレントの少年らに、長年わいせつ行為を行っていると報じた記事について、主要部分の真実性を認める判決が確定している。だが、その後、多くのメディアを含め十分な追及がされず、事務所も放置したことが増長を招いたのではないか。

 男性の会見をNHKはニュースで報じたが、主要な民放は扱っていない。大手芸能事務所への忖度(そんたく)とも見える。視聴者の信頼を損なうような姿勢は改めるべきだ。

 芸能界の人権意識の欠如や旧態依存とした労働慣行が、ハラスメントの温床と指摘されて久しい。

 昨今、映画監督や劇団主宰者から性暴力や暴言を受けたとする若手俳優らの告発が後を絶たない。

 日本芸能従事者協会の昨年調査で、回答した俳優や歌手、モデルらの93%がパワハラを、74%がセクハラを体験・見聞したという。加害者は監督や演出家が多い。

 文化庁は本年度から新たに、文化芸術分野のハラスメント防止に向け、契約の適正化や研修・相談などの支援を予定する。

 米国では映画プロデューサーによる性被害を告発する「#MeToo」運動から、防止策が進む。日本も業界を挙げて旧弊を絶ち、夢を持つ若者が安心して活躍できる環境を整えてもらいたい。

© 株式会社京都新聞社