東証が問題視する「PBR1倍割れ」の企業、改善策が株価に与える影響とは

東京証券取引所が昨年、2022年4月に市場区分を東証1部、2部、JASDAQ、マザーズから、プライム、スタンダード、グロースの3つの区分に再編したことはご存知の方も多いと思いますが、いまプライム市場とスタンダード市場に上場する約3,300社を対象として、東証が株価を引き上げるために企業価値の向上や資本効率の改善を要請しています。

具体的には、約3,300社のなかで特にPBR(株価純資産倍率)が1倍以下の企業を問題視しており、その是正に取り組んでいるようです。このニュースを知らない方は、もしかしたら投資チャンスを逃しているかもしれません。

今回は、投資初心者の方に向けてPBRとはなんなのか、PBRが1倍以下の企業は今チャンスなのか、PBRが1倍以下の企業のなかでどのような銘柄を選べばよいのか、解説していきます。


PBR(株価純資産倍率)1倍割れとはどういう意味か

PBRとは、純資産と株価の関係から株価の割安度を測る指標で、「株価 ÷ 1株あたり純資産」で算出されます。計算式をご覧いただくとお分かりいただけるように、PBRが1倍を下回っているということは、株価がその企業の純資産よりも安いことを意味し、市場がその企業の将来の成長や収益性に対して魅力的を感じていないと言えます。

数字上だけの意味では、いま企業を解散した方が価値がある、つまり市場価値が解散価値を下回っているということで、ブランド力や信用力なども市場に評価されていないということです。一時的な株価下落などで、PBRが1倍以下になる場合もありますが、慢性的にPBR1倍割れの状況に陥っている企業も多く存在しており、その状態は企業価値を毀損し続けるとみなされているため、東京証券取引所は問題視しているといえます。

東京証券取引所は市場区分の見直しに関するフォローアップ会議を定期的に開催していますが、第1回会議でもPBR1倍割れが議題となり、欧米と比べてプライムやスタンダード市場にPBR1倍割れ企業が多すぎることが問題視されており、2023年1月25日(水)の会議の議論を踏まえて企業価値向上に向けて、冒頭でお伝えした企業価値の向上や資本効率の改善の要請である「中長期的な企業価値向上に向けた取組の動機付け」を提示。次いで2月15日(水)の会議では目標や計画期間を策定し、その内容を投資家に年一回アップデートして開示することを要請することが示されました。

改善策は何が考えられるのか−−株価への影響は?

では企業によるPBR1倍割れの改善策として、どのようなものが考えられるのでしょうか?

東京証券取引所は、2023年3月末開示の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」で、「持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するため、単に損益計算書上 の売上や利益水準を意識するだけでなく、バランスシートをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経 営を実践していただくことです。具体的には、取締役会が定める経営の基本方針に基づき、経営層が主体となり、資本コストや資本収益性を十分に意識したうえで、持続的な成長の実現に向けた知財・無形資産創出につながる研究開発投資・人的資本への投資や設備投資、事業ポートフォリオの見直し等の取組みを推進することで、経営資源の適切な配分を実現していくことが期待されます」と示しています。

また東証は、株買いや増配のみの対応や一過性の対応を期待するものではないとしていますが、実際のところPBR1倍割れの改善策として、代表的な自社株買いの発表をした企業が急増した印象を持っている方は少なくないでしょう。なぜ自社株買いがPBR1倍割れの改善策となるのでしょうか−−自社株買いをすると発行済み株式総数が減ります。するとPBRの分母にあたる「1株あたり純資産」が大きくなります。

例えば、株価2,000円、純資産20億円、発行済み株式総数100万株、1株あたり純資産2,000円(20億円 ÷ 100万株)のPBRは1倍(2,000円 ÷ 2,000円)です。自社株買いで発行済み株式総数が80万株に減少すると、1株あたり純資産は2,500円(20億円 ÷ 80万株)に増加し、PBRは0.8倍(2,000円÷ 2,500円)に低下します。

つまり自社株買いが行われると、PBRは低下してしまうのです。ですが、1株当たりの利益が増えるということになるため、自社株買いは投資家にとってポジティブなニュースとなり、株の買い材料となったり、定期的な自社株買いが想定されると株価の下支え効果となります。

また自社株買いをすることで、自己資本利益率(ROE)などが改善することから株価が割安だと判断されることも見込めるでしょう。出来高が低い、つまり注目度が低い企業にとっては取り組みやすい改善策と言えそうです。

その他の改善策としては、市場とのコミュニケーションを増やして投資家に知ってもらうIR活動の活性化や、増配などの株主還元をすることも考えられそうです。新型コロナウイルスの感染拡大で設備投資も積極的に行いにくかったことから、現預金が積みあがっている企業も多くなっており、このお金の使い道を自社株買いやIRなどの施策に使っていくと考えます。そうなると、PBR1倍割れ株の注目度が高まっていることもご理解いただけると思います。

例えば大手リース会社の三菱HCキャピタル(8593)は、PBRが0.64倍。2023年3月期 第3四半期決算短信ではCAI International, Inc.の利益貢献や貸倒関連費用の減少などで、純利益は 前年同期比で13.4%増と2桁増益となっています。事業ポートフォリオ変革を推進しているとのこと。

ハトメ ホックのグローバルニッチトップ企業であるモリト(9837)はPBR 0.77倍。115年目の老舗企業で、4月13日(木)に発表された第一四半期の決算が過去最高。3期連続の増配を発表した高配当、好財務、好業績銘柄です。

そして株主還元のリリースで大幅上昇した例として、自動車や機械向けオイルシールを手掛けるNOK(7240)も挙げたいと思います。NOKのPBRは0.52倍。4月19日(水)の引け後に2026年3月期までの3年間で、少なくとも計675億円の株主還元(前期2023年3月期の増配と今期2024年3月期の100億円の自社株買いの実施)を実施すると発表したことで、夜間PTSで23%高となっています。

なお、これらは2023年4月19日(水)現在の数字をもとに、PBR1倍割れ企業の動きの例として紹介させていただいたもので、銘柄の推奨ではないことをご承知おきください。


PBR1倍割れ企業のなかでも、足元の決算は好調か、東証が収益性の基準として挙げているROE8%を満たしているか、トップシェアやニッチトップなどの優位性があるか、底堅いビジネスをしているか、高利益率かどうか、財務は健全か、ブランド力や信用力などの定性面の強みがあるかなど、知られていなくて割安に放置されているお宝銘柄を探すと、中長期的に利益につながっていくのではないでしょうか? ぜひご自身で、PBRが1倍以下のお宝銘柄を探してみてください。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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