相続権がない!事実婚やパートナーシップ制度を選ぶなら考えておきたい終活と相続

パートナーシップ制度を利用したり、あえて事実婚を選択するような、多様な生き方が広まりつつあります。パートナーシップ制度や事実婚はもちろんメリットもありますが、気をつけたいのは、終活や相続の時。事実婚とどこが違うのでしょうか? 行政書士が解説します。


事実婚と法律婚の違い

事実婚とは、婚姻の意思があり共同生活を送っているが、婚姻届を提出していない状態の夫婦のことです。一方で、法律婚とは、婚姻届を提出し、法律上の婚姻関係が認められた戸籍上の夫婦のことです。つまり、事実婚と法律婚の違いは「婚姻届を提出したか」ということになります。

多様な生き方が広まり、婚姻届を提出しない事実婚の方が増加傾向にあるとも言われています。このことから、近年では戸籍上で他の配偶者の有無や同居期間等を証明し、審査を経ることで保険金の受取人に指定することができるようになる保険会社なども増えてきています。

事実婚のメリット・デメリット

現在、日本の法律では夫婦で別々の姓を名乗ることは認められていません。つまり、法律婚の場合には、夫または妻のどちらか一方は自分の姓を変えなければいけないということです。そのため、姓を変えた人は、本人確認資料(免許証、マイナンバー等)や銀行口座などで名義変更をしなければなりません。仕事の事情で姓を変えることに抵抗がある方もいらっしゃいます。

そして、婚姻関係を解消する場合、法律婚では戸籍にその事実が残ります。一方、事実婚では戸籍への影響や各種手続きも必要ありません。

このように、夫婦関係に生じるさまざまな点から、姓を変える必要のない事実婚を選択する方も増えてきているようですが、注意も必要になります。

注意したいのは相続と税金控除、入院の時

事実婚で一番大きな注意点は、遺産を相続する権利がないことです。事実婚の場合、何年・何十年と共同生活を送っていた場合でも、相続権はいっさいありません。相続が発生した場合、夫婦関係について戸籍をもとに証明するためです。

この対策としては、遺言書を作成することですが、亡くなった方の相続人や家族とトラブルになるケースも見受けられます。遺言書の作成については、相続に精通する専門家と相談の上で作成することをお勧めします。

その他にも、法的な婚姻関係が認められていない事実婚の場合には、税金の控除が受けられないことがあります。事実婚でも控除が認められることはありますが、住民票などで事実婚の関係を証明する必要のあるケースがあります。怪我や病気で病院に入院するときなどでも、事実婚を証明しないと手術同意や面会を断られるケースもあるようです。

パートナーシップ制度を導入する自治体が増えてきた

事実婚以外にも、近年では性の多様性が尊重され、各自治体も対応するようになってきました。その1つがパートナーシップ制度です。

2015年、東京の渋谷区と世田谷区がパートナーシップ制度を取り入れ、自治体が同性カップルを証明したり、宣誓を受け付けることができるようになりました。それから約8年間が経過した現在では、国内の多くの自治体がパートナーシップ制度を導入しています。

この制度を利用する場合は、自治体に連絡を行い必要書類や宣誓日を決定し、指定の場所で宣誓を行うことでパートナーシップ宣誓受領証が交付されます。

各自治体により、要件、必要書類、証明書の呼び方や交付までの期間が異なるため、パートナーシップ制度の利用を検討する場合には、まずは自治体へ問い合わせることをお勧めします。

パートナーシップ制度にも相続権はない

この制度を利用することで、事実婚を証明するケースと同様に病院での付き添い、生命保険の受取人となることなどが可能になるケースも増えてきています。最近では、携帯電話の家族割などが利用できるケースもあるようです。

しかし、パートナーシップ制度は、事実婚と同様に法的な効力を有するものではないことに注意が必要です。つまり、パートナーシップ制度を利用したとしても、相続権はないということです。この場合でも遺言書を作成することでパートナーに財産を残すことができます。

しかし、亡くなったパートナーの相続人や家族と争いになる可能性や、パートナーの家族にカミングアウトしなければならない可能性などもあるため、事実婚のとき以上に慎重に検討をする必要があるでしょう。

まず話し合うべきことは「お金をどうするか」

事実婚やパートナーシップ制度の利用を検討されている方々に大切なことは、しっかりと話し合いをしておくことです。もちろん法律婚の方々にも必要なことですが、前記のとおり事実婚やパートナーシップ制度には法的な効力がない点などを考えると、より重要なことだと分かっていただけるかと思います。

では、どのようなことを話し合っておく必要があるのでしょうか。

まずは、お金の管理に関することが重要になります。特に気を付けなければいけないのは、配偶者やパートナーのどちらか一方の名前で銀行口座を作り、金銭を管理している場合です。このような場合で相続が発生するとどうなるでしょう。

金融機関としては、遺言書がない場合には、亡くなった方の相続人でなければ解約等ができないこととなっています。つまり、法律上の婚姻関係にない方では、解約の手続きができないということです。このような事態にならないためにも、お互いのルールを決めておくことが必要となってきますので、やはり遺言書を作成する必要があるかもしれません。

子どもについても話し合っておこう

子どもが産まれた時のことを話し合う必要もあります。

法律上の婚姻関係にない方との間に子どもが産まれた場合には、父親欄が空欄になってしまうからです。そのため、父親が認知しない限り、父親と子どもの間に親子関係は生じません。また、生まれた子どもの親権者は母親になり、母親の姓となります。父親が親権を取得するためには、各種手続きが必要となるのです。

気を付けることは環境によっても変わる

このように、生活や性の多様性が認められるようになってきていますが、法律や制度が全て整っているわけではありません。そして、この記事で紹介したメリット・デメリット以外にも、それぞれの環境によって気を付けることは変わってきます。

事実婚と法律婚のどちらを選ぶべきなのか。パートナーシップ制度は利用するべきなのか。自分たちの場合には他にも何か気を付けておかなければいけないことはあるのかなど。迷われた際には、このような制度に詳しい専門家に一度相談してみることをお勧めします。

行政書士:細谷洋貴

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