1億円近い賠償事例も…。自転車保険選びのポイントと加入しなくてもよい人とは?

自転車は、子どもから高齢者まで手軽に活用できる交通手段として、重宝されています。その反面、自転車事故による、高額損害賠償請求が後を絶ちません。条例により自転車保険加入が義務化されている地域が多い中で、どのような保険を選べばいいのか、詳しく説明します。


自転車保険が義務化される背景

国土交通省では、自転車活用の推進を図るため、平成29年5月から「自転車活用推進法」を施行しています。

自転車は、二酸化炭素等の発生がないので、環境にやさしく、通勤・通学などに自転車活用を推進することで健康増進・交通混雑の緩和などの効果も見込まれる、という主旨でこのような法律をきめ、推進に力を入れています。また、頻発する災害時においても、自動車や電車などに比べ機動的という視点から、国を挙げて推進しています。

自転車活用推進には、自転車専用道路および路外駐車場の整備、交通安全にかかわる教育・啓発、災害時の有効活用体制の整備など、様々な施策を行っています。

自転車を利用するひとが増えることは望ましいことですが、自動車事故が減少傾向にあることに比べ、自転車運行による事故は減少していません。自転車は自動車に比べ速度も限られていますが、自転車同士の事故や、歩行者との衝突事故では、自動車のように、ひとのからだを守る車体がなく、直接からだに衝撃を受けてしまうため、大きなけがや死亡事故に至る例も珍しくなく、大きな問題となっています。

この事態を受け、活用推進後の検討事項として、ひとの命が害された場合の損害賠償を補償する自転車保険の義務化を各自治体で進めることになりました。

令和4年4月1日現在の制定状況は下表のとおり。損害賠償責任保険への加入を義務化している都道府県が30、努力義務としている都道府県が9となっています。義務化の地域でも、罰則規定は設けられていませんが、すべての人が損害賠償責任保険に加入するよう、学校・事業所・自治体からの広報などを通じ、周知徹底をはかっています。

出典:国土交通省 自転車活用推進本部 自転車損害賠償責任保険等への加入促進についてより抜粋

これまでの、自転車事故による高額賠償例は下表のとおりです。歩行中や自転車同士の事故で、重い後遺障害を負わせてしまった例、一旦命は取り留めたものの、数日後に死亡に至ってしまった例などです。いずれも数千万の高額賠償請求となっており、保険に入っていなければ、払える金額ではないでしょう。

小学校にあがれば、親の手を離れ、行動範囲も広がります。小中高校の入学時には、自転車保険加入の案内もあるかと思いますが、お子さんに限らず家族全員のリスクをカバーするような保険に加入することが大切です。

出典:一般社団法人日本損害保険協会

自転車保険の加入方法は?

ひとくちに自転車保険といっても、加入方法はいろいろあります。

1.TSマーク(公益財団法人 日本交通管理技術協会)
自転車の点検が終わると、貼ってもらえるシールがあります。このTSマークには賠償責任保険と傷害保険等が付いています。自転車安全整備士が点検確認した普通自転車に貼られるもので、自転車安全整備士番号と基準点検日が記載され、自転車に乗っている人が対象。基準点検日から有効期間は1年です。

点検を受ける整備店により補償内容が違い、3種類のパターンがあります。
賠償責任1億円、搭乗者の傷害補償、被害者に対する見舞金などがありますので、加入書で確認しましょう。

保険料は、点検整備料に含まれていて、別途払う必要はありません。
気をつけなければならないのは、有効期間が点検から1年間で終了してしまうことです。自動継続がありませんから、同時期に忘れず点検整備を行わないと、付保もれが生じることがあります。

2.団体保険に加入
自転車会員 サイクル安心保険(一般財団法人 全日本交通安全協会の団体保険)、みんなの自転車保険(一般社団法人 自転車安全対策協議会の団体保険)などの団体保険に加入する方法があります。

いずれも、自転車保険に特化しており、団体割引が30%程度適用されているので、保険料が安く抑えられるのが特徴です。

賠償責任保険1億円のみの場合、年間掛金1,700円程度と格安です。本人や家族の死亡や入院補償まで補償内容を広げても、年間4,000円前後です。保険期間は1年ですが、申し出がない限り自動継続となっていますので、つけ忘れがなく、便利です。

3.民間保険会社の傷害保険に加入
一般の損害保険会社の傷害保険に加入することで、自転車事故の賠償責任、ご自身・ご家族のケガの入院通院費用を補償する方法です。傷害保険ですので、自転車に限らず、日常生活全般での、賠償責任やご自身ご家族のケガの入院通院費用も補償しますので、保険料は高くなりますが、日常のリスクをフルカバーすることができます。保険料は年間1万円程度になります。Webで加入、または代理店に問合わせ、対面での加入も可能です。

4.民間保険会社の賠償責任保険に加入
日常生活の賠償責任を自転車事故に限らずトータルで無制限に補償します。ご自身や家族のケガの補償は対象外です。そのため、保険料は安価で、年間2000円程度で同居のご家族、別居のお子さん、別居の両親も補償する範囲の広さが特徴です。

自動車保険の特約で補償するお得な備え方

自転車保険に加入する以外に、自転車保険相当の補償を、すでに加入している自動車保険で代替できていることがあります。加入中の保険の確認をしてみましょう。

自動車保険に付帯されている特約に、日常生活賠償または個人賠償という特約が付帯されていれば、改めて自転車保険に加入する必要はありません。しかも、この特約は、ご家族にひとつ付帯されていれば、本人・配偶者・同居の家族・別居の未婚のお子さんまで補償しますし、無制限補償の特約が増えていますから、手厚い保障です。保険料は年間2,000円程度です。ご家族全員のカバーができると思えば決して高い保険料ではありません。

もうひとつ、自転車でケガをした場合の費用についても特約でカバーできます。自動車保険の人身傷害補償の特約として、交通乗用具(自転車・バス・電車など)に関係する事故の治療費用を支払う特約があります。この特約は、治療費の実費、休業損害、慰謝料を支払う特約ですので、通常の傷害保険より幅広く費用を賄えます。補償対象も賠償と同様、ひとつの特約でご家族を補償することができます。自動車保険に加入の方でしたら、自転車保険に加入するよりお得になるでしょう。特約は途中でつけることも可能です。お子さんの入学に合わせて、自動車保険の代理店に相談してみるといいですね。自動車保険と一緒でしたらつけ忘れもありませんし、安心です。

賠償責任保険は重複していても二重に支払うことはできません。無駄のないよう心がけましょう。

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