京都・向日に露地野菜のカフェ風直売所 大病から生還した店舗リーダーが抱く志とは

こだわりの野菜や米粉のケーキの直売所を建てた永井農園の店舗リーダー永井八重子さん(京都府向日市上植野町)

 天井が高く、カフェのようにおしゃれな農産物の直売所。小さな子どもと親がおにぎりをほおばり、お年寄りが毎朝、コーヒーを飲みに通う。京都府向日市にある永井農園店舗リーダーの永井八重子さん(57)は「大変な仕事という農家のイメージを楽しいものに変えたい」と語る。

 鉄工所を経営する長岡京市の実家で育ち、農業と縁遠かった。夫の幸信さん(57)は結婚当時、会社員だった。兼業農家の義父の口癖は「食べていけないから専業農家にはなるな」だった。

 ところが幸信さんが50歳で突然、「脱サラして専業農家になる」と宣言。食事も取れなくなるほど悩んだ八重子さんは、心臓の機能が著しく低下する「たこつぼ型心筋症」と劇症型心筋炎を同時に発症。医師に「2、3日の命」と宣告を受けたが、集中治療室(ICU)に1カ月入院し、奇跡的に回復した。

 ICUでは、ナスやトウガラシが布団となって自分を覆い、助けようとする夢を見た。病気を経た八重子さんは「もう怖いものはない。楽しく農業をやろう」と腹をくくった。

 幸信さんと手間暇掛けて露地野菜の栽培に取り組む。農薬はできる限り使わない。人の手が必要な種まきなどは、友人やボランティアに手伝ってもらう。「夫はいい野菜を作る職人」と信頼する。

 昨年、長女の中村沙知さん(31)の家族が家を建てる際、「みんながにぎやかに集まれる場所に」と、1階に直売所を設けた。中村さん夫妻に加え、次女や三女もそれぞれの夫や恋人と一緒に直売所や農業を手伝う。

 直売所では、こだわりの旬の野菜や米、米粉をはじめ、米粉を使った菓子などを販売する。「米粉の魅力を引き出すレシピが不思議とすっと浮かんだ」という、野菜がたっぷり入った塩味のケーキは、すぐに売り切れる人気ぶりだ。食物アレルギーの子も食べられる卵不使用の「蒸しケーキ」も考案。自慢の米粉は、婚礼用チャペルや飲食店を営む京都市の会社にも卸している。

 結婚後、義父が育てた旬の野菜を食べているうちに持病のアトピー性皮膚炎が治ったという八重子さん。「安心安全な野菜の食べ方を紹介し、広めたい。おいしさを知ってほしい」と張り切っている。

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