「ぶっちぎりで致死率が高い仕事」紛争地でテロ撲滅を目指す日本の若者たち 脅迫、爆破が日常茶飯事でも「使命感が勝つ」

 ヘルメットをかぶり、装甲車で移動する永井陽右さん(右)=ソマリア(アクセプト・インターナショナル提供)

 イスラム過激派組織が絡む武力衝突が頻発し、世界でも有数の危険地帯とされるソマリアやイエメン。この遠い地でテロ撲滅を目指し、体を張っている日本の若者たちがいる。永井陽右さん(31)が立ち上げたNPO法人「アクセプト・インターナショナル」(東京)は、テロ組織からの脱退や投降兵の社会復帰支援に取り組んでいる。現地では日常的に脅迫を受け、スタッフが爆破テロで殺される危険も付きまとう。なぜ命を危険にさらして活動するのか。3月に東京都内の事務所でインタビューすると、永井さんは「使命感が勝ってしまう。テロや紛争のない世界にするために、何が必要かだけを見詰めています」と語った。

 日本に帰国するとたいてい体調を崩すといい、少し前まで伏せっていた。「ぼろぼろですね。現地でも一仕事を終えると高熱が出ます」と自虐的に話したが、それほど紛争地での仕事は心身にかかる負担が大きい。(共同通信=三吉聖悟)

 ▽ショックを受けた「ツバル水没」の記事

 インタビューに答える永井陽右さん=3月3日、東京都中央区

 神奈川県海老名市の出身で、もともとはテロ組織どころか海外との接点自体まったくといっていいほどなかった。小中高はバスケットボールに打ち込んだが、けんか上等の日々を送り、やや荒れた少年時代だった。

 そんなある日、インターネットで「ツバルが海水面上昇で水没する」という環境問題の記事を読み、ひどくショックを受けた。「なんとかしなければ」という思いが募ったが、高校生が具体的に取れる選択肢はなかった。ここから一念発起して大学進学を目指し、浪人時代には「一日最低12時間」の猛勉強をこなして大学合格を果たした。その頃には「どうせなら世界で一番大変な思いをしている人を助けるために生きる」と目標もできていた。

 大学1年の夏、ケニアに渡航した。そこで、たまたま大飢饉で隣国ソマリアから押し寄せた難民を目の当たりにした。帰国後、専門家らにできることはないかと相談したが「迷惑をかけるだけ」「行ってはだめだ」と諭された。「それじゃだめだろ」と憤り、「とにかくソマリアの人たちを助けよう」と2011年9月に立ち上げた学生団体が現在のアクセプトにつながった。

 ▽防弾チョッキを着ても「死の危険」

 アクセプトは、ソマリアやイエメンのほかにも、ケニアやインドネシアに拠点を持ち、テロ組織からの脱退や社会復帰を支援している。投降兵が途中で見つかれば殺されてしまうため、保護には細心の注意が必要となる。子どもの時にテロ組織の一員となった人も多く、ろくに勉強する機会がなかった。そのため、読み書きを含む基礎教育のやり直しは、組織に奪われていた人生を取り戻す起点となる。

 アクセプトは、ソマリアでテロ組織から脱退を望む人に向けた「投降ホットライン」を運用している。覚えやすいよう、4桁の電話番号でつながる。それを記載したリーフレットをイスラム過激派組織「アルシャバーブ」が実効支配する地域まで届ける。政府の最前線の部隊や現地に住む部族長らと連携し、配布してもらっている。ホットラインに連絡があれば、合流地点を定め軍のヘリや装甲車で迎えに行く。防弾チョッキを着込み、止血剤など緊急処置用品を備えるが、永井さんは「リスクはゼロにできない。致死率は民間の仕事ではぶっちぎりで高い」と説明する。

 常に最善最良の移動手段が得られるわけではない。直近の現場活動でも、「本当はヘリで行きたかったけれど、他の戦線に全てのヘリが出ていて仕方がなく車で行くことになりました。軍が同じ方面にヘリを出す時に乗せてもらえればいいけれど、投降のタイミングと合わないこともあります」と実務面での難しさを明かした。

 投降兵を保護した後、情報機関が危険性の高くない人物と判断すれば、ソマリアに4カ所ある受け入れ施設で社会復帰に向けた職業訓練をする。アクセプトはそのうち一つの施設の運営を担う。少年時からテロ組織に属し暴力的な過激主義に染まっているケースもある。それを再教育し、過激主義から抜け出すように手助けする。永井さんは「彼らが若者として“復活”できるように何が必要なのか考えるのが大切。若者ってだけで無限の可能性を秘めていますから」と強調する。元兵士が施設を卒業する際には、彼らがどこで生活するか気をもむ。アルシャバーブの息がかかったエリアだと、再び組織に戻ってしまう危険があるからだ。

 投降兵の社会復帰に向けたプログラムを行う永井陽右さん(右)=ソマリア(アクセプト・インターナショナル提供、投降兵の顔にぼかし加工がされています)

 ▽「いつも見ているぞ」テロ組織の脅迫
 構成員の足抜けを防ぎたいテロ組織から脅迫を受けるのは日常茶飯事だ。どういうやり方なのか、永井さんの説明によるとこうだ。「常とう手段として、たとえば『おーう、今日はお疲れ。ブラウンの上着で、マスクを着けて、町に行ってたなあ』という風に電話やSNSで伝えてきます」

 これは、暗に「いつも見ているぞ」と伝えることが目的だといい、永井さんは「日本で『殺してやる』と言われるのとまったく違います。現地では暗殺事件も多くて、こうした脅迫は極めて危険です」と実態を話す。「おまえと、おまえの国によろしく。待ってろ」といった表現で脅されることもある。

 その上で、自らについて「どこかで死ぬと思います。絶望的に危険なことをやっていますから。周りのやつも死んでいて怖いですよ」と、どこか達観した話しぶりだ。

 受け入れ施設を旅立つ元兵士の若者と記念写真に納まる永井陽右さん(右)=ソマリア(アクセプト・インターナショナル提供、元兵士の顔にぼかし加工がされています)

 自らが最前線に顔を出すことで、政府や軍、地元の有力者らと信頼関係を強めてきた。アジア系が珍しいアフリカや中東では、特にこの積み重ねが大きい。もし永井さんというリーダーを失った時、現地人スタッフも含め100人を超えるアクセプトが瓦解することはないのか。この点について「(バスケ界のスーパースター)マイケル・ジョーダンがいなくなったらシカゴ・ブルズは終わりだって話もあったけれど、結局は誰かがステップアップしていく。アクセプトは組織という枠を超えて、多くの人の思いの集合体なので、自分が死んでも絶対に終わらないと思います」と信じている。

 ソマリア政府軍の指揮官らとの定例ミーティングに臨む永井陽右さん(右から2人目)=ソマリア(アクセプト・インターナショナル提供)

 ▽「できること」で考えない

 永井さんは今年3月、10年余りの活動を振り返った「紛争地で『働く』私の生き方」を出版した。シビアな紛争地の現状だけでなく、現地スタッフや元テロリストらと和気あいあいと過ごすひとときも伝える。睡眠時間を削って書き上げたという本に込めたメッセージを次のように語った。

 永井陽右さんの著書「紛争地で『働く』私の生き方」

 「世界や社会を良くするために、『できること』から思考を立ち上げていても難しい問題は未来永劫解決できない。毎日ごみ拾いを続けていても、世界からごみ問題がなくならないように。だから、特に若い人は、どうやって課題を解決するか、そのために何をしなきゃいけないのかという視座で考えるようにしてほしい。鍵は強靱な意志です」

 NPO法人「アクセプト・インターナショナル」のホームページはこちら
https://accept-int.org/

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