社説:知床事故1年 対策強化に教訓生かせ

 北海道・知床沖で観光船が沈没した事故から1年となった。乗客乗員20人が死亡し、6人が行方不明のままだ。遺族の悲しみや無念さは今も消えることはない。

 これまで運航事業者のずさんな安全管理や、それを見逃した国の監査体制の甘さが明らかになった。悲劇を繰り返さぬよう、再発防止策に教訓を生かす必要がある。

 観光船は、天候が悪化する中、波高などの安全管理規定を守らず出航。事故発生時、船長の携帯電話はつながらず無線も使えない状態で、運航管理者の社長は外出して事務所に不在だった。

 乗客の命を軽視していたと言わざるを得ない。第1管区海上保安本部は、業務上過失致死容疑で運航会社社長の捜査を続けている。

 事故原因を調査している運輸安全委員会は昨年12月、船首付近の甲板にある約50センチ四方のハッチのふたが密閉されず、海水が入ったと推定。船内を仕切る隔壁にあった開口部を通じて浸水が広がり、沈没したとの見方を示した。

 事前に対策を講じていれば惨事は避けられた可能性が高い。直前に特別監査や船舶検査を行っていたにもかかわらず、事故を防げなかった国側の責任も重い。

 政府は安全対策を盛り込んだ海上運送法改正案を今国会に提出した。小型旅客船の事業許可を原則5年の更新制とし、人員確保や船員教育に関する計画作成などを義務付ける。安全確保命令に違反した事業者への罰金も引き上げる。

 小型船舶安全規則を改正し、高い波が打ち付けても船体下部が浸水しない構造にすることなどを、2025年度以降の新造船を対象に義務化する予定だ。

 重要なのは、こうした対策を着実に実行できるかどうかである。監督や検査にあたる人員を確保するなど体制の強化や実務研修などで、チェック機能を高めることが欠かせない。

 事故を受け、地元3社でつくる知床小型観光船協議会は、各社に委ねられていた運航判断を複数社で協議する方法に改めるなど、安全運航のルールを制定した。各地でこうした取り組みを広げたい。行政や業界団体は、零細が多い事業者の対策が進むよう、資金面などで支援することが必要ではないか。

 海上保安庁は今月、高度な救助技術を持つ機動救難士を事故のあった地域を管轄する基地に配備し、運用を始めた。事故ではヘリコプターが現場到着まで3時間以上かかった。万が一の際に迅速に救助できる体制も整えてほしい。

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