柔道家1人、Jリーガー3人、アスリート兄弟として知られる酒井兄弟。
その末っ子である酒井高聖さんは現在、神戸・御影の地でカフェ「Alster&Garten」の店長を務めている。
アルビレックス新潟U-18出身でトップチームでもプレーしていた酒井さんだったが、現役時代の大半をドイツで過ごすこととなった。21歳の時にドイツに移籍すると、昨年引退するまでドイツで現役時代を過ごした。そんなドイツでの現役生活や、同じく神戸の地で活躍する兄高徳との知られざる関係性、そしてなぜカフェの店長になったのか。「元サッカー選手・現カフェ店長」酒井高聖さんに話を聞いた。
──お兄さん達がプロでプレーする中でのトップ昇格でしたが、プレッシャーなどは無かったでしょうか。
酒井(以下略)高校のときは、やっぱりお兄ちゃんが(プロに)なっている分、自分もなるんだろうみたいなというプレッシャーはありました。(プロに)なれなかったらどうしようかなみたいな。不安との闘いだったので、トップ昇格が決まった瞬間は特別にうれしかったですね。
──4兄弟のうち3人に「高」の字がついています。それに何か特別な意味が込められているのでしょうか。
名付け親のような方がいると聞いています。(三男の宣福が)1人だけ「高」がついていないのは、誕生日の違いで3人が早生まれなので。1人だけ早生まれじゃないから名前が違うという説明を受けましたね。
──新潟でプレーした後、ドイツでのキャリアを選択されました。その理由について教えていただけますか。
うちの兄ちゃん(高徳)がいて、ドイツに(プレーの)機会があるとなった瞬間に、いま行かないといけないという感覚に駆られました。1回試しにドイツに行ってみて、サッカーをさせてもらったときに、この(国の)サッカーはすごく面白いなと思って。そこからは日本でやることよりも海外でやる方にシフトチェンジして、マインドが変わったような感じでした。
──具体的にドイツサッカーのどのような点が面白かったのですか。
縦に早いサッカーや、ボディコンタクトが多いプレースタイルがすごく自分に合うと思った。早いサッカーの中でもすごく考えられたし、密なサッカーだなと。あとは自分が今まで習ってきたサッカーとは違う戦術、考え方から違う技術をすごく楽しめたので。新しい世界に飛び込むのはいいなと思って、新潟をやめてドイツに行きました。
──酒井さんは現役時代、センターバックで主にプレーされていました。ドイツでプレーしてみて、ここが違うな、ここが上手いなと思うことはありましたか。
寄せるところとか。ディフェンスはチーム全体で寄せてくるので、日本でやっていたような感覚でやったらすぐ囲まれて取られてしまう。逆にこっちがディフェンスの際には(相手が)すごく体の使い方がうまいので、ボールが触れなかったり。そういうところは(ドイツでプレーしている選手が)すごくボディコンタクトした中でのボールタッチに慣れているかなって感じでしたね。
──ドイツに渡る際、お兄さんの高徳さんやドイツ人のお母様からアドバイスはありましたか。
自己主張しないと基本的に自分の意見が通らないので、どんどん話して自分の意見を伝えていました。言葉が喋れない最初は、何とかコミュニケーションを取ろうとした結果チームに溶け込めた。そういった意味で生活に苦がなかったのかなって思います。
──その後、酒井さんは2022年に引退するまでドイツでプレーされました。日本とドイツで環境面に違いはありましたか。
やっぱり日本のチームの方が物も多いし、施設とか環境もすごく素晴らしいものが整っているなという感覚はありました。
──ドイツはサッカー強豪国ですし、ドイツの方が施設など整っているイメージがありますが。
(日本は)物があふれているので、サプリメントのようなすごく細かいものからすごく徹底されている感じはあるんですけど。ドイツはちょっと自己責任だとか、選手個人の考えが尊重されるのかなっていう感覚はありました。スタジアムの広さとか、規模はやっぱり日本とは比べ物にならないぐらいすごいですね。
──引退時は26歳でした。当時、日本に戻って選手キャリアを続ける選択肢も有り得たと思います。なぜ引退という決断に至ったのでしょうか。
もともと新しいものを始めたり、新しい世界に飛び込むことが好きな性格なので。ちょうどドイツに行って6年経って節目というか。気分的にどうしようかなというのが頭をよぎるタイミングになってきた中で、うちの兄ちゃんに相談したり、周りに相談していて。たまたまこのカフェをやろうという話に行き着いたので。それだったらもうきっぱりと諦めてというか。引退して違う世界に進もうかなと思いました。ドイツで過ごした最後の1年が結果とか含めてよく回っていい1年だったので、すごく気持ちよく辞められたかなというのがありますね。
──カフェについて伺います。お兄さんの高徳さんと一緒にカフェを作った詳細な経緯を教えてください。
兄ちゃんが神戸に住んでいて、「日本に僕の好きなカフェがない」というか、「作りたい」とずっと言っていて。「それだったら作ればいいんじゃない?」という話から始まりました。「でもやる人がいない、誰が動けるんだ」というところから、「じゃあ一緒にやろうぜ」という話になったと思います。
あとは彼自身、コーヒーがすごく好きなので、こだわった自分の好きなものを置ける場所をほしいという話だったので。それだったら「僕も協力するよ」ということで一緒にやろうとなりましたね。
──酒井さんは、元々飲食に興味があったと以前ヴィッセル神戸の公式YouTubeで仰っていました。きっかけなどはありましたか。
もともと料理が好きで人を喜ばせるのも好きなので、人に食べてもらって「美味しい」と言ってもらえたりするとすごく気持ちいいので。そういったことを職業にできたらいいのかなと思いつつ、いつか年をとったときに1人で小さい店をやれたらいいなと夢に思ったりしましたね。
──ご兄弟でカフェ経営は珍しいと思います。兄弟仲は相当いいのでは。
仲はいいですね。ドイツでずっと一緒にいたこともありますし、幼少期にそんなに関わりがなかったので大人になってから仲良くなったというのもあって。兄弟ってより本当に仲のいい友達のような感じで付き合えているのかな。
──2018年から1年程一緒に過ごしたということですね。その間2人で一緒の生活の中での仲の良いエピソードなどはありましたか。
それこそ休日にはカフェに一緒に行ったりだとか、コーヒー屋さん巡りしたりだとか。ドイツではサッカーがテレビですごく流れているので、世界中のサッカーを見ながらこういったプレーがこうだよね、こういうのが日本っぽくないよね、こういうのが海外っぽいねって話をよくしていました。お互いの試合を見ながらこのプレーがこうだよねって話もしていましたね。
──店名の由来についてもドイツ時代の生活の経験から来ているそうですね。
「アルスター&ガーテン(Alster&Garten)」っていうんですけど、アルスターっていうのは僕と兄ちゃんが住んでいたハンブルクの中心にある湖の名前です。その周りにお店が出ていたり、公園になっていて、人々が集まる場所になっていました。そういった場所を「神戸に作れたらいいね」とこの名前にしたんです。
コーヒーが人をつなげてくれたり、コーヒーをツールに人がつながったり、集まったりする場所を僕らが目指して作っている感じですね。
──店内はヨーロッパ風の装飾を意識しているそうですね。実際ドイツのカフェからの影響などはありましたか。
日本っぽい無機質なカフェってよりは、ごちゃごちゃじゃないけど。ちょっと違ったものを集めて、その中で統一感を出したり。そういった中で落ち着く場所を作りたかったので、1つ1つの家具とか、塗装にもこだわりました。
──特にこだわったインテリアや家具はありますか。
カウンターはすごく作るのが難しかったと思いますね。ゼロからデザインしたり、1つ1つ決めないといけなかった。(特に)カウンターはすごくこだわったかな。店の壁などは僕らが自分で塗っているので、そのあたりがすごく手をかけたと思います。
──コーヒー文化が盛んなドイツでの経験はお店に影響しましたか。
どちらかというとそこよりはヨーロッパのコーヒーを飲んできて、日本に帰ってきて美味しいと思ったコーヒーを今出している感じなので。そこが基準になっていたからその差が分かって。差別化ができているコーヒーにすごく感激したので、それを出したいなという感じで出しています。
──店内はヨーロッパ風ですが、コーヒーに関しては日本のものなんですね。
ヨーロッパ風って僕らの好きなもので固めているようなものなので。内装はヨーロッパのもの、コーヒーはこっちのもの。
でもドイツのほうがコーヒー先進国なので、浅煎(あさい)りのコーヒーなんかも美味しいものは多いし。(僕らは)たまたま飲んでこなかっただけで、特にヨーロッパにこだわったとか日本にこだわった感じじゃないです。僕と僕の兄ちゃんが好きなもの、出したい、いいと思うものをここにまとめた感じですね。
──去年の開店から約5カ月経ちました(取材日3月29日)。驚いたこと、苦労したことはありましたか。
コーヒー自体を淹れるのも提供するのも初めてだったので、この勉強にすごく時間がかりました。あとはやっぱり従業員さんたちは飲食で働いていて、すごく知っている方だったので「こういうもんだよ」「こうやったら上手くいくよ」とか。「こういう配置でこういうオペレーションで」とすごく毎日が勉強でした。その辺が結構覚えることがいっぱいでしんどかったことと、思ったより人が来てくれているところがうれしいですね。
──このカフェの高聖さんのお勧めメニューを教えてください。
僕はパンにこだわっていて、白い食パンなんかをドイツでは食べなくなって。向こうは黒いパンだったり、全粒粉のパンだったり、雑穀だとかライ麦が主流で使われているので、そういったパンが主体です。
うちのトーストは雑穀のパン、雑穀と全粒粉のパン、ライ麦とスペルト小麦(古代小麦)を使ったパンを使っているので。そういったところはこだわりだと思いますね。
──神戸はパン屋が多く栄えている地域です。神戸に来てパンについて感じたことやいい店はありましたか。
日本でドイツパンをやっているところに、実際はこんなんじゃないよって思ったりすることとかが多かった。その中で、ビオブロードさん(芦屋市)は美味しいなって思いましたし、今パンを作ってもらっているビアンヴニュさん(東灘区)はすごく上手にパンを作っていると思います。
──ヴィッセル神戸の公式YouTubeチャンネルにも取り上げられるなど、ヴィッセル神戸との繋がりもあります。今後ノエビアスタジアムに出店する計画はありますか。
(出店)したいなと思っています。ヴィッセルを(きっかけに)見て来てくれている人も多いですし、自分が思ったよりこの御影にヴィッセルのファンもいますね。
そういった方々じゃなくても、遠くから来てくれている方々にも、ちょっと知ってもらえたら嬉しいなと思います。そのあたり含めてやっぱりスタジアムやヴィッセル神戸とコラボが出来たらいいのかなと思います。
──今季からリーグで対戦する神戸対新潟の試合で出店できれば、新潟サポーターの皆さんも喜びそうですね(今期は対戦済みで出店はなかった)。
もし出来たらすごくいいですね。
──店舗の今後の展望について教えてください。
このカフェは住宅地にありますし、この近隣の住民にすごく愛されるような、そこでモーニングを食べたい、ゆっくりしたいという場所になってもらいたいと思います。
この店舗はこのままで、ちょっとずつイベントなどで外にも出ていけたら、外の人にもっと知ってもらえることになると思います。そうやってこの店で街ごと盛り上げられたらいいのかなっていうふうに思いますね。
──酒井さんの今後の夢や目標はありますか?
常に新しいことにチャレンジしたいなと思います。いろんなことやり続けて、留まることができない人間だと思っているので。いろんなことをやり続けながら、いろんなつながりができて、というように(繰り返していって)終わらずに生活できたらいいのかなって思います。
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日本・ドイツでの経験を糧に未知の世界に挑戦する酒井高聖。兄弟の「好きなもの」を表現し、新世界に飛び出していく。
Alster&Garten(アルスター&ガーテン)
所在地:兵庫県神戸市東灘区御影1丁目14-25 メビウスビルB1
営業時間:午前8時から午後6時まで(定休日:不定休)