社説:アベノマスク 情報隠さず検証尽くせ

 なぜこの程度の情報を非開示としたのか。国民に対する説明逃れは許されない。

 2020年に安倍晋三政権が新型コロナウイルス対策として全世帯に配布した布マスク「アベノマスク」。業者に発注した枚数や単価に関する行政文書の情報を開示しないのは不当として大学教授が起こした訴訟で、開示を命じる大阪地裁判決が確定した。

 開示を受けた教授が会見し、マスク1枚当たりの単価は62.6~150円で、納入業者や時期によって2.4倍の差があったと明らかにした。「国は国会と国民にも公表し、政策を検証すべきだ」としている。

 配布されず余ったマスクの量も膨大で、その管理費などコストの全容は不明のままだ。一部の業者に巨額の利益を与えた疑念も拭えない。第三者委員会など外部の目で検証が求められる。

 開示文書などによると、政府は20年3~6月の約3カ月間に17業者との間でマスク計約3億2千万枚を全て随意契約で発注した。

 厚生労働省が業者を公募した時期(20年4月)の前後で単価に開きがある。いったん300円で契約した後、130円に変更された例もあったという。

 訴訟で国側は、今後の価格交渉に支障を来す恐れがあり、業者のノウハウに関する情報だと主張したが、判決は「公にすることで国の財産上の利益を不当に害する恐れはない」と一蹴した。

 とりわけ随意契約で購入する物品の単価や数量は「税金の使途にかかる行政の説明責任の観点から、開示の要請が高い」と指摘した。まったくその通りであり、政府の言い分は話にならない。

 当初から世論の大きな反発を招いたアベノマスクには、国会のチェックを受けない予備費が使われた。緊急性があったとしても、適宜の検証は欠かせない。

 コロナ対策では政権の場当たり的な浪費が目に余り、マスクは最たるものだ。ずさんな対応が反省されないまま、ワクチンなどの過大発注が繰り返されたのではないか。

 第2次安倍政権下では公文書の廃棄や改ざんなど、民主主義の土台である情報公開をないがしろにする問題が相次いだ。マスク情報の不合理な非開示は隠蔽(いんぺい)だと思われても仕方ない。

 新型コロナの感染症法上の位置づけは来月8日から5類に移行する。今後の教訓とするために、公開の場でコロナ対策を十分検証するべきだ。

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