「手話は言語」普及へ力 茨城・筑西市 条例5年 専門職員配置 学校教育を再開

手話の習得に励む筑西市の手話クラブのメンバー=同市丙

手話を言語と位置付けて理解を深めようと、茨城県筑西市が手話言語条例を県内で初めて制定し、今年で5年となる。市の責務とした「手話が身近なまちづくり」を推進するため、本年度、専門職員を障がい福祉課に初めて配置。コロナ禍で中断していた小中学校での手話教育を再開させるなど、10代から慣れ親しむことで、手話の普及や通訳者の拡大につなげたい考えだ。

▼「新たな挑戦」

閉庁した筑西市役所の会議室で、手話を学ぶ人たちの姿があった。職員14人でつくる「手話クラブ」のメンバーだ。

活動は月2回、1時間ずつ。この日は講演会の手話通訳を想定し、訓練した。メンバー一人一人が手指や顔の表情、体の動きで伝えると、指導役の中山孝子さん(46)が両手を広げ、頭上でひらひらと動かした。手話で「拍手」を意味する。

中山さんは1日付で、市障がい福祉課の専門職員となった。同条例に関わる施策を推進する。2016年に県内市町村で初めて手話ができる正職員として採用され、現在は全国手話検定1級の資格を持つ。

これまでは一般事務や窓口業務も行っていた。今後は、耳が不自由な人が来庁した際、職員との間で円滑な意思疎通を図り、市の講演会では通訳を担うなど、手話関係に特化する。中山さんは「新たな挑戦」と気を引き締める。

▼見えない障害

筑西市手話言語条例は18年9月、県内市町村で初めて条例として制定、施行された。市の責務や市民・事業者の役割を規定。前文では、手話を「美しく、力強い視覚的言語」と位置付けている。

聴覚障害は外見からは分かりにくいことから、「見えない障害」といわれる。こうした現況や手話に対する市民の理解を深めたいと、市はパンフレットや動画などを作成。災害時に市職員とろう者が意思疎通を図るための「コミュニケーションボード」なども用意した。

手話クラブに所属し、同準1級を取得した市民税課の市毛知佳さん(32)も「いざというときに完璧に対応できるようにしたい」と意気込む。

一方、市が課題としてきたのが手話教育だ。

市聴覚障害者協会(藤田好昭会長)と連携し、19年に手話を学ぶ授業を市立竹島小で開催した。児童に歯を磨く手の動きを再現してもらい、「それも手話なんだよ」と伝えた。窓ガラス越しでも会話ができるとも説明し、手話が身近で、役立つことを伝えた。

他校での開催も決まった矢先、新型コロナウイルス感染拡大に見舞われた。授業は中止に追い込まれ、再開の見通しは立たなくなった。

▼将来の担い手

コロナの5類移行が決まるなど、日常が戻りつつある中、市は本年度、手話教育を本格化する。中山さんは近く、市校長会で手話授業を提案し、日程調整を進めるという。

こうした取り組みが手話通訳者の養成につながると期待するのは、県聴覚障害者協会の鈴木隆雄副会長(69)だ。竹島小の授業で講師を務めた経験を踏まえ、「(将来の担い手を)育てるには、小中学校での活動が一番良い」と力を込める。

手話通訳者の派遣事業を行う県立聴覚障害者福祉センターによると、登録者は105人。このうち50代以上が3分の2を占め、20代はほとんどいない。

鈴木副会長は「若い人がどんどん増えてほしい」と語り、手話教育の可能性に期待を込めた。

★手話言語条例

鳥取県が2013年、全国で初めて制定した。手話を独自の言語体系を持つ「文化的所産」と位置付け、普及に向けた自治体の責務や住民らの役割を明記した。全日本ろうあ連盟によると、同様の条例を施行した自治体は21日現在、36都道府県を含む487自治体に上る。茨城県では県と筑西、水戸、土浦の3市。国に手話言語法の制定を求める動きもある。

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