「一生に一度だけ?」「体を一周したら…死⁉」“帯状疱疹”気になるウワサを“経験記者”が調べてみた

日々の仕事に、家事や子育て…ついつい、頑張りすぎて、知らず知らずのうちに過労となって、ストレスが溜まり、気づくと、皮膚にピリピリとした痛みが出るー。いま、幅広い世代で増えている病気のひとつが「帯状疱疹」です。皮膚の表面に突然、発疹や水ぶくれが出て、眠れないほどの痛みがあるのが特徴で、経験した人はみな、「二度とかかりたくない」と口を揃えます。

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ところでこの病気、「なるのは一生に一度だけ」と聞いたことはありませんか。あまりの痛みから「帯状疱疹が体を一周したら死ぬ」なんて、恐ろしい話を耳にしたことはないでしょうか。意外と分からないことが多い、この病気にまつわるさまざまな“ウワサの真相”を、帯状疱疹を経験したばかりの47歳の記者が調べてみました。

赤く腫れあがった筆者の額 まぶたも腫れぼったい 兆候は擦りむいたような“違和感”だった

まさか“再発”するなんて…

「うわぁ、何だこれ…」

4月7日の朝のことでした。私は洗面所の鏡に映る赤く腫れあがった額を見て、がく然としました。どことなく右目の周りにも違和感があります。「病院に行ってきた方がいい」。妻の声に押され、向かったのは、かかりつけの皮膚科でした。

先生は私の顔を見るなり、

「これは帯状疱疹ですね」

「きのうから、髪の毛の生え際がヒリヒリしていて、擦りむいたのかと思ったのですが…」

「それは帯状疱疹の兆候です」

なるほど。確かに、連日仕事が立て込んでいたし、太ももの時はピリピリが何日も続いていたけど…ん?

「帯状疱疹って、一生に一度じゃないんですか?」

「再発はあります」

私はちょうど1年前に、帯状疱疹を経験していました。出たのは右太もも。耐えがたいほどの痛みこそなかったものの、何日も続く“ピリピリ感”に困り果て、病院へ。「帯状疱疹」と診断された時は、なぜかホッとしたことをよく覚えています。

1週間、抗ウイルス薬を飲み続けると、痛みも自然と消えていました。「帯状疱疹は一生に一度だから、この程度で済んでよかった」と、思っていたのに…まさか、“再発する”なんて、思っても見ませんでした。

なぜ“働き盛り”に急増?「水ぼうそう」との意外な関係

そもそも、帯状疱疹はなぜ起きるのでしょうか。原因は水ぼうそうと同じウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス)。日本人の成人の9割以上の体内に、このウイルスが潜んでいるといいます。

静岡済生会総合病院(静岡市駿河区)皮膚科の嶋津苗胤副部長によると、「子供の頃にかかった水ぼうそうによって、水痘ウイルスが神経節に潜んでいる。これが何らかの免疫力低下が起きた時に、今度は一本の神経に沿って暴れ出す」のが発症のメカニズムだといいます。

帯状疱疹は50代以降、発症率が急激に増え、80歳までに3人に1人はなるといわれています。中でも、いま、目に見えて増えているといわれるのが、20代から40代。“働き盛り世代”の発症と聞くと、過労やストレスが引き金…とついつち思いがちですが、私を診察してくれた宇野医院皮膚科アレルギー科(静岡市駿河区)の宇野裕和院長はそれだけが原因ではないと教えてくれました。背景には「子供たちへの水痘ワクチン接種」があるというのです。

「一生に一回」と言い切れなくなった背景

水痘(水ぼうそう)ワクチンは、2014年から定期接種が始まりました。これにより、「以前は子どもの水ぼうそうの患者は多かったが、定期接種によって数は減ってきた。その一方で、親がウイルスに接する機会が少なくなり、“ブースター効果”といって、追加免疫が得られなくなり、結果として帯状疱疹を罹患する年齢が若年化してきた」(宇野医師)のです。

帯状疱疹の大規模疫学調査「宮崎スタディ」によると再発率は約6%。一度、帯状疱疹になると、ウイルスに対する免疫力があがるため、再発することはあまりないといわれています。

ただ、年が経てば、抗体も徐々に減り、そのタイミングで過労やストレスなどで免疫力が低下すれば、再びあの痛みに襲われる可能性があります。また、抗がん剤など免疫抑制を起しやすい治療を受けている場合も同様です。いずれにせよ、「帯状疱疹は一生に一回だけ」とは言い切れないのです。

「顔に出た」ことの意味は?

体中に張り巡らされている神経。ここに潜むウイルスが1本の神経に沿って暴れ出す帯状疱疹。出る範囲の多くは上半身とされていますが、私のように顔に出たことには、どんな意味があるのでしょうか。

嶋津医師は「ウイルスは、ほぼすべての神経節に潜むので、そこに何らかの理由があるからとかではなく、偶然そこに出る。たまたま“選ばれてしまった”のだ」と説明。ただ、「顔に出た場合は合併症や後遺症を心配する部位でより注意を必要」だと呼びかけます。

帯状疱疹の後遺症で代表格といえるのが、帯状疱疹後神経痛です。発疹や水ぶくれなどの症状が治まったのちも続くというやっかいな後遺症です。また、顔の場合、顔面神経痛や角膜炎や結膜炎などがみられることがあり、視力低下や最悪、失明に至ることもあるのです。

嶋津医師は「腫れや水ぶくれなど、見た目の症状は一部かもしれないが、実はその一帯の神経にも障害が出ている。とにかく気になったら、迷わず受診して、しっかりと抑え込むことが大切」と訴えます。

「体を一周したら死ぬ?」ってホント?

私は「1週間の加療が必要」という診断書を出してもらい、仕事を休んで治療に専念。右まぶたにも少し発疹が出たものの、飲み薬で症状は改善しました。“完治”後、知人にこの話をしたところ、言われたのが「帯状疱疹って一周したら死ぬ、っていうよね」。確かにネット上にも同様の記述が散見されます。そんなこと、本当にあるのでしょうか。

宇野医師に聞いてみると「基本的には左右どちらかに出る。さすがに(一周回って死ぬことは)ないと思う」ときっぱり。「ウイルス量が多いと汎発性帯状疱疹といって、体のいろいろな場所に出ることもあるが、これは本当にまれなケース。これが“一周回る”と言われているのではないか」と冷静な対応を呼びかけます。

日本医師会などによる調査によると、2009年からの3年間で帯状疱疹の入院例は約1万8,000人だったのに対し、亡くなったのは3人。そのほとんどが基礎疾患を抱えた患者だったといいます。不確かな情報に振り回され、余計なストレスを受けていては、治るものも治らない。私が自宅療養中、スマホの電源を切っていたことは正解だったかもしれません。

帯状疱疹に“ならない”ためには

ほとんどの日本人の体に潜んでいるウイルスと過労、ストレスが相まって起きる帯状疱疹は、まさに“現代病”といえます。一方で、周りに帯状疱疹を発症した人が増えたり、50歳以上の帯状疱疹ワクチン接種を呼び掛けるCMを頻繁に目にしたりすることで、この病気への関心度が高まり、結果として、患者が重症化して病院に駆け込んでくるケースは少なくなったといいます。

では、帯状疱疹を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。その答えはいたってにシンプルです。

・ストレスをためない

・十分な休息や睡眠

・適度な運動

・規則正しい生活

これらを意識することで、免疫力を低下しないようすることが大切です。3度目はもう嫌だ。自分自身にも言い聞かせたいと思います。(SBS NEWS DIG編集長 金國賢一)

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