「思いを届けたい」 高校生が描く“原爆” 体験者の話を絵に… 試行錯誤

広島市の高校生が毎年、「原爆の絵」の制作に取り組んでいます。初めて本格的に戦争体験に触れて、試行錯誤をしながら制作に取り組む高校生を取材しました。

基町高校の3年生、福本あおいさんです。描いているのは、被爆者の体験を聞き取って制作する「原爆の絵」です。

福本あおい さん
「最初は正直、他人事にしていたんですけど、もうこんな経験、絶対にできないだろうし、証言者さんもだいぶ減ってきたというか、こういう絵が描けるのは今しかないだろうと思って」

制作は去年の10月から始まりました。

福本あおいさん
「廣中さんのお力添えになれるように全力でがんばらせてもらいます。よろしくお願いいたします」

廣中正樹 さん(83)は、5歳のとき、爆心地から3.5キロ離れたところで被爆しました。父の背中に爆風で突き刺さったガラスをペンチで抜こうとしたことなど、当時の惨状を絵にしてもらおうと、基町高校にやってきました。

廣中正樹 さん
「77年経ってもね。こんなふうにいろんなことを思い出して涙が出るんよ。今でいうトラウマかな」

福本あおい さん
「(話を聞いて)なんとも言えない感情がすごく胸からこみ上げてきて、この感情を自分の絵で伝えられるようにしなきゃという思いが、よりいっそう強くなりました」

保育園のころからイラストを描くのが大好きだったという福本さん。

福本あおい さん
「これ、全然違う。原爆の絵とかとまったく違う」

空想や感情をデザインしたり、愛犬など身近なものを描いたりしてきました。

福本あおい さん
「原爆の学習は保育園のときからしていて、実はちょっとトラウマになっていたんです。小1・小2のとき、一時、飛行機の音を聞くだけでウワーッと」

広島市で育った福本さんですが、被爆者と直接関わるのは初めての体験です。

福本あおい さん
「昔のものを描くって本当になかった。全然違うジャンルというか、いちから知っていくのは難しいな」

廣中さんと初めて会ってから1か月後、原爆についてあらためて勉強し、下書きを見てもらいました。

廣中正樹 さん
「全身、やけどをしとるけんね。ここは完全に身が出て、真っ赤っかになっとったけんね」

福本あおい さん
「(原爆投下)当時の色付きの資料や全く同じシチュエーションはないので、自分で考えていかないといけないというのがすごく難しい」

明るさや色味など詳細な描写の打ち合わせを重ね、下書きが完成し、実際のキャンバスに絵を描き始めました。

福本あおい さん
「やっぱり全然、サイズ感がわからないのが1番多くて。体型を今まで解剖学の本を見て書こうと思っていたけれど、それで書いていたら、今の健康的な体つきになってしまって…」

実際のポーズを友だちに写真に撮ってもらったり、戦時中の写真の本を読んだりして研究しました。背中のやけどの描写では…

福本あおい さん
「ちょっと難しかったので、献血に行っていたんですよ。見るに越したことはないので、やっぱり」

絵の制作を始めてから半年余り…。3年生の福本さんは、勉強に追われながらも試行錯誤を続けています。

廣中正樹 さん(83)
「なぜ、おやじは5歳の子どもにこんなことをさせたのかを問いかける。戦争になれば、こういうことになる人がおるんよと。(この絵は)そういうことを意味している。もう戦争はしたらいけんのんよと」

絵の完成は、ことしの8月6日までを目指しています。

福本あおい さん
「もし、期待に添えないものができてしまったらどうしようとか思うことはあったんですけど。がんばります。廣中さんの思いを一緒にみんなに届けていけるようなものにしたいです」

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