憲法の“老後”は

 「還暦」は60年をかけて生まれた年の干支(えと)に還(かえ)ること。「古希」は漢詩の「古来稀(まれ)なり」に由来し、どちらも中国から入ってきた。「喜寿」は室町時代の日本で生まれ、ご存じのように「喜」という字の草書体を「七十七」と読むことからきている▲きょうは「憲法記念日」。満年齢で76歳、数え年だと日本国憲法はことし喜寿を迎えた。戦後の日本生まれで、昔ならば長寿に当たる▲本来は長生きをことほぐ日だが、昨今はなにぶん、憲法を語る言葉が弾まない。いや、なるだけ弾まないよう、静かに事が進んでいる-と言う方が正確かもしれない▲岸田文雄首相は自民党の中でも護憲色の強い勢力を引き継いでいて、改憲に前向きではないとみられていた。実際には、相手国の領域を攻撃できる「反撃能力」を持てるよう推し進めたりと、疑問符の付く姿勢を目にする▲「先制攻撃」とは違うのか、「専守防衛」の枠をはみ出さないのか。議論は大いに弾むべきだが、そうならない。このまま粛々と進めばいい、と首相は内心でつぶやいているのかどうか▲最近の世論調査では、改憲の機運が「高まっていない」とみるのは7割に上る。政府の前のめりと、国民の静けさと、その温度差は著しい。人でいえばご長寿の憲法だが、なおも“老後”の不安の種は尽きない。(徹)

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