先月1日(日本時間)に開催されたJ1浦和レッズとサウジアラビア1部アル・ヒラルとのアジアチャンピオンズリーグ決勝戦第1試合は1-1で引き分けた。浦和ホームで開催される第2試合を前に、現地観戦したライターのRyoさんが紀行文を届けてくれた。
第2弾は現地のスポーツショップ、スタジアムグルメの紹介に、ACL決勝観戦記を届けてくれた。2019年まで旅行ビザを発行しなかった未知の国サウジアラビアのフットボールシーンを読者へおくる。
未知の国のスポーツショップ事情
AFCアジアチャンピオンズリーグ(以下ACL)決勝を観戦するため、私はサウジアラビアの首都リヤドを訪れた。サウジアラビアは2019年まで外国人の観光目的の入国を制限していた国。初めてサウジアラビアへ渡航する私にとって、未知の国に足を踏み入れた感覚だ。
試合当日、アル・ヒラルとの決勝が行われるキング・ファハド国際スタジアムへ向かうバスの集合時刻までは時間がある。せっかくサウジアラビアまで来たのだ。観光地に行くのも良いが、サウジアラビアのサッカーに対する熱量を肌で感じられる場所へ行ってみたい。
そこで私は、アル・ヒラルのオフィシャルストアへ行くことにした。
アル・ヒラルはサウジアラビアリーグ最多18回の優勝を誇る同国の超名門クラブだ。これまで浦和レッズとは2017年と2019年にACL決勝で対戦。2017年は準優勝、2019年にはアジア制覇を果たした。
特に2019年の決勝は、4-0(2試合合計スコア)と衝撃的なスコアで浦和を破っての優勝。浦和レッズにとって因縁の相手である。2021年大会は韓国の浦項スティーラースに勝って優勝したため、今大会は連覇がかかっている。浦和レッズとしてはなんとかそれを阻止したいところだ。
いざストア入店へ
アル・ヒラルのストアは、リヤドの中心地からは少し離れた場所にある。リヤドは鉄道駅が少なく、ストアへの移動にはUberを利用するのが最善だろう。
法律事務所やカフェが一体となった商業施設の1階に構えているショップがアル・ヒラルのオフィシャルストアだ。営業時間は午前10時から午後11時まで。私が到着した午後2時ごろは、すでに多くのアル・ヒラルサポーターの人だかりができていた。
この日が試合開催日ということも関係しているのだろうか。さっそく店中に入ってみよう。
いざ入店してみると、入り口から向かって左側はアラブのテントを彷彿させる白い波状の天井が印象的なブース。右側は2階まで吹き抜けの構造となっている(※客が出入りできるのは1階フロアのみ)。
波状の天井のブースは、アル・ヒラルのホーム、アウェー、サードのレプリカユニフォームの他、同クラブのトレーニングジャージが売られている。チームカラーの青を基調としたユニフォームやトレーニングジャージは迷彩柄の独特なデザインでどれもかっこいい。
壁紙を見てみると、アル・ヒラルの選手たちのポスターが貼られている。プレミアリーグなどで活躍したナイジェリア代表のオディン・イガロやJリーグのFC東京にも在籍した韓国代表のチャン・ヒョンスのポスターがあった。
ポスターの掲載はないのだが、アル・ヒラルの外国人選手は、彼らの他にムサ・マレガやルシアーノ・ビエット、アンドレ・カリージョなど、欧州で実績のある選手が所属している。
なんて分厚い選手層なのだろうか。恐ろしい限りである。だが彼らのようなスター選手に思いきりブーイングを浴びせられることは、浦和サポーターにとって1つのモチベーションにもなる。
圧倒的なタイトル数は強豪の証
続いて2階のブースに移動してみた。先ほど紹介した波状の天井のブースは大量のユニフォームが並べて売られていたのに対し、こちらのブースはユニフォームの配置など見せ方に凝っている印象を受けた。
壁にはアル・ヒラルのフラッグが掲げられ、テーブルの上にユニフォームが置かれていたり、ユニフォームを着たマネキンが立っていたりと展示の仕方は様々だ。
またストア全体を通じて子ども用の小さいユニフォームの在庫が多い。実際に店内は家族連れで訪れる客も多く、家族全員分のユニフォームを買うサポーターも少なくない。さすがはサウジアラビア屈指の人気を誇るビッグクラブだ。様々な年齢層から愛されていることがよく分かる。
天井を見上げてみると、そこにはアル・ヒラルの全獲得タイトルが掲載されていた。圧倒的なタイトルの数だ!アル・ヒラルの獲得タイトルは、合計で57冠だという。来店するアル・ヒラルサポーターはこの記録を眺める度に、応援するクラブの強さと愛情を深めるのだろう。
購買カウンターに目を向けると、アル・ヒラルのエンブレムの横に、アブドゥルアズィーズ初代国王、サルマン国王、ムハンマド皇太子の肖像画が飾ってあった。
リヤドではいたる所で見たサウジアラビア王室の肖像画だが、サッカークラブのオフィシャルストアでも見ることになるとは思わなかった。
自国の君主や指導者の肖像画が飾られるサッカークラブのオフィシャルストア。世界的にも珍しいはずだ。
購買カウンターのすぐ隣には、アル・ヒラルのフラッグがカートで売られていた。今日の浦和レッズとのACL決勝のためだろう。ユニフォームを買った多くのアル・ヒラルサポーターがフラッグも追加で購入していた。
お得なユニフォーム情報も
そして私が日本人だと分かると、アル・ヒラルサポーターが「4-0、4-0」とジェスチャーを交えて煽ってくる。かなりアル・ヒラルサポーターから煽られたが、最後は写真撮影や握手を求めるなど、意外と友好的。「煽り」を含めてサッカーを楽しんでいるのだと感じた。浦和イレブンには彼らをぎゃふんと言わせるような結果を期待したい。
そして私は今回、アル・ヒラルのホーム用のレプリカユニフォームを買うことにした。
値段は1着で85サウジアラビアリヤル。日本円に換算するとだいたい3,086円(2023年4月29日時点)ほどだ。ちなみに2023シーズンの浦和レッズのレプリカユニフォームが税込14,300円。アル・ヒラルのレプリカユニフォームの安さがよくわかる。
さらに、ここでお得な情報を得る。
なんと、3着同時に購入すると195サウジアラビアリヤルで買えるのだ(日本円約7,079円、2023年4月29日時点)。しかもユニフォームであれば組み合わせは自由。これは上手い販売手法だ。ぜひJリーグのクラブも真似してほしい。
私にとって未知の国だったサウジアラビア。今回、アル・ヒラルのオフィシャルストアへ行き、アル・ヒラルを応援するサウジアラビア人も、我々Jリーグのサポーター同様に愛するクラブがあり、サッカーが日常にある生活を楽しんでいると分かった。
一方でサウジアラビアならではの文化を垣間見ることもできた。今後海外へ旅行するサッカーファンは一度現地のクラブのストア、あるいはスポーツショップに足を運んでみてほしい。
会場入り前にサポーターインタビュー
アル・ヒラルとのACL決勝を戦うキング・ファハド国際競技場へ向かうバスの道中、同行した浦和レッズのサポーターに少しお話を伺った。
――サウジアラビアまで来ました。お仕事の調整など大変だったと思います。
レッズのために頑張って仕事を終わらせてきました。飛行機のトランジットの間も仕事してましたよ(笑)
――浦和の注目選手は。
注目選手は興梠、関根、西川です。2019年の悔しさを知っている選手たちなので、今回の決勝にかける思いは人一倍強いと思います。
――アウェーでの試合ですが、応援でどのようにして相手を上回りますか。
サポーター1人、1人が隣の人より大きな声を出すことを意識してほしいです。
――アル・ヒラルとは2019年以来、3回目のACL決勝です。
(これまでの決勝での対戦成績が)1勝1敗なので、今日はしっかり勝って必ず埼スタで優勝できるように声援でサポートしたいと思います。
そう答えてくれたサポーターの表情は自信に満ち溢れていた。
スタジアム入場後、選手たちがピッチに出てくるまでかなり時間があった。昼食を食べ損ねた私は、お腹が空いていた。腹が減っては戦ができぬ。この後控える観戦のためにもエネルギーを補給したい。そこで私は食べ物を探した。
アウェー席のゲートの隣に何やらキッチンカーらしき売店を発見。食べ物を売っている!さっそくここのキッチンカーで注文した。
テーブルの上には、花のような形をしたパン、南アジアから西アジアで一般的に食べられるサモサ、奥にはグラタンが置いてあった。お腹が空いていた私は、この中で一番お腹に溜まりそうなグラタンに決めた。
「これを一つください」と拙い英語で伝えた。店員さんがビニール手袋をつけた。すると、そのままグラタンの器に手を突っ込むではないか。驚いたのも束の間、中からパンのような個体の食べ物が出てきた。
未知の国のスタグルのお味は
グラタンと思っていたこの料理、パックに取り出してみると、ハンバーガーのような料理だった。「ベシャメルサンド」というらしい。フランス料理などでよく使うベシャメルソースをバンズで挟んでいる。
一口食べてみると、バター、チーズの良い風味が口の中に広がる。ほとんどグラタンだ。
バンズは少し水分を含んでいるが、ボロボロ落ちることなく食べやすい。
食べすすめていくと、中身はカレー味だった。具材はひき肉、パプリカなどが使われている。中の具材はよく炒めてあって歯応えもよく美味だ。ベシャメルソースとカレーの組み合わせは日本人好みの味だと感じた。
サウジアラビアのスタグルなど全く想像もできなかったが、意外にも日本人好みの味で美味しくいただけた。Jリーグのスタジアムで販売しても人気が出るのではないだろうか。
今後、海外でサッカー観戦をするのであれば、ぜひ現地のスタグルに挑戦してみてほしい。
完全アウェーの地に乗り込んだ浦和レッズは、先発に西川、関根、興梠ら2019年の屈辱を知る選手がスタメンに名を連ねた。
一方のアル・ヒラルも、サレム・アル・ドサリ、サルマン・アル・ファラジュなど2019年の優勝を知るメンバーに加え、ムサ・マレガ、ミシャエウ、オディン・イガロなど破壊力抜群の外国人選手を前線に配置した。
試合は1-1で終了。勝利こそできなかった浦和だが、完全アウェーの地で貴重なアウェーゴールを持ち帰ることに成功した。
浦和サポーターは試合終了後も絶え間なく選手たちへ声援を届けた。人数こそ少ないが、応援ではアル・ヒラルのサポーターを上回れたと感じた。
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5月6日、次は我々のホームでの決戦だ。3度目のアジア制覇へ舞台は整った。いざ埼玉スタジアムへ。3つ目の星を胸に刻むために戦う覚悟を感じた。