社説:教員の勤務実態 長時間労働の根本的解決を

 ある小学校教員(39)の1日を追うルポが先日あった。

 起床は午前5時半。電車で通勤し、職員室に顔を出した後、8時には担任を務めるクラスの教室に向かう。

 休み時間も児童と遊び、ほとんど休憩しない。午後はクラブ活動をこなし、放課後は職員会議に出席し、新人を指導する。

 「勤務時間内に仕事を終えるのは不可能」と言い切る。午後9時ごろまで学校に残る日もあるが、同僚より特に多忙というわけではなさそうだ。

 教員の長時間労働が問題となって久しい。果たして、改善は進んでいるのだろうか。

 文部科学省が先月、2022年度の教員勤務実態調査の結果(速報値)を公表した。公立小中学校に勤める約3万5千人から回答を得た。

 教員は、学校内での勤務時間が週60時間以上になると、一般に「過労死ライン」とされる月80時間超の残業をした、とみなされる。

 それが、前回16年度の調査と比べて、小学校教諭で19.2ポイント減の14.2%、中学校教諭で21.1ポイント減の36.6%となり、大幅に改善した。

 通常時の1週間の平均勤務時間は、前回は60時間を超えていた小中の副校長・教頭が58時間台、中学校教諭が57時間台になった。

 部活動のガイドラインを改めたり、新型コロナウイルス対策で学校行事を絞り込んだりしたことなどが功を奏したようだ。文科省は、働き方改革が成果を上げたとする。

 一方で、同省の定めた月45時間の上限を超えて残業をした教諭が多くみられる。

 この上限を上回ることになるのは、学校内の勤務時間が週50時間以上になる教諭で、今回は小学校で64.5%、中学校で77.1%を占めていた。

 これでは、依然として長時間労働が常態化している、といわざるを得ない。

 公立学校の教員は、学校行事や災害時などの超勤項目以外は残業代が払われない。通常の勤務では、超過分の切り分けが難しいためで、代わりに月給の4%相当が「教職調整額」として支給される。

 調査結果を受けて文科省は今後、中教審で教員の処遇改善について議論し、教職調整額を規定している教職員給与特別措置法を見直すという。

 手当てなどを増やし、職場での動機づけを高めてもらおうとの意見もある。しかし、それだけでは問題の根本的な解決にならないのは明らかだ。

 教育行政の識者は、今の学習指導要領の分量を前提にしていては大きな改善は期待できず、要領の内容を絞るか、教員を増やすしか手だてはない、と指摘している。

 財源も含め、さらに議論を深める必要がありそうだ。

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