社説:コロナ「5類」移行 感染再拡大へ警戒怠るまい

 「コロナ前」の暮らしを取り戻せるだろうか。

 新型コロナウイルス感染症はきょう、感染症法上の位置付けが「5類」に引き下げられた。季節性インフルエンザと同等の扱いとなり、緊急事態宣言の発令や感染者への外出自粛要請など特別措置法の適用から外れた。

 3年3カ月余り続いた特別な対応は解かれるが、夏に向け再び感染が増加に転じる恐れもある。警戒を怠ってはならない。

 新型コロナ患者は2020年1月に国内で初めて確認された。感染者数は累計3300万人を上回り、死者も7万4千人を超えた。危険度が2番目に高い「2類」より幅広い措置が取れる「新型インフルエンザ等感染症」に位置付け、原則として入院などの措置を講じてきた。

 5類移行で、医療や社会活動に関する対策は大幅に緩和される。前倒しで3月からマスク着用ルールが緩められ、水際対策も海外旅行客の増加を見込み大型連休前に打ち切られた。

 疲弊した国内経済に明るさが戻り、コロナ禍前の暮らしへ一歩踏み出せるとの期待は大きいに違いない。しかし、「コロナは終わった」という誤ったメッセージとしてはなるまい。

 無料のワクチン接種は本年度内は続くが、医療費の公費支援が縮小され、陽性判明後の外来診療などは原則自己負担となる。医療費が払えないとの理由で受診を控えて症状を悪化させることがあってはならない。患者に過剰な費用負担とならない配慮が欠かせない。

 感染者数は全数把握されず、濃厚接触者の特定もなくなる。無症状でも他人にうつすため、感染拡大を招きやすい。

 高齢者ら重症化リスクが高い人が利用する医療現場などでは戸惑いもあろう。マスク着用を含め、不安を考慮して少しずつ対策の緩和を進めるべきだ。

 4年ぶりの人出でにぎわった大型連休が終わり、流行の先行きは不透明だ。「第9波」が起こり得るとの専門家の指摘もある。日本は高齢化率が高い上、欧米などに比べ国内の感染者の比率が低く、対策の緩和が急速に進んでいるためだ。

 最も気がかりなのは、医療逼迫(ひっぱく)の再来であろう。

 政府は移行後、全国の病院など約8400施設で最大5万8千人の入院を受け入れると見込んでいる。外来で対応する病院数も現在より2千施設程度増えるとも判断。だが、補助金の削減が進めば、「机上の空論」になりかねない。

 岸田文雄首相は「平時の日本を取り戻していく」として脱コロナへ転換を急ぐ構えだ。前のめりにならず、着実な病床確保や状況に応じたワクチン接種策、新たな変異株が出現した際の備えなど、引き続き求められることは多い。

 コロナとの共生は避けて通れない。ただ、まだリスクが大きいことも忘れてはならない。

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