【韓国】全州国際映画祭、にぎわい戻る[社会]

全羅北道全州市で4月27日から5月6日までの10日間、「第24回全州国際映画祭2023」が開催された。期間中は42カ国・地域の247本が上映された。韓国の連休とも重なり、上映館やイベント会場が並ぶメイン会場(通称「映画の通り」)ではマスクを外した大勢の人が春の祭りを楽しんだ。【芳賀恵】

「映画の通り」のイベント会場 (芳賀撮影)

映画祭の主催者側の発表によると、5日までの観客数は6万5,900人、客席稼働率は83.1%で、いずれも昨年を大きく上回った。新型コロナウイルス禍のため2020年にオンライン開催となり、以降も規模を縮小して実施してきたが、今年は海外のゲストやメディア関係者の姿も戻るなどコロナ禍以前のにぎわいが帰ってきた印象だ。

全州映画祭は発足当時から「独立・代案」を掲げる。商業ベースに乗らない良作を上映し、制作支援も行うのが特徴だ。今年も「私たちは常に線を超える」をスローガンに、意欲的かつ独創的な低予算映画やジャンル映画を数多く紹介した。

日本からは11本を招待。このうち太田達成監督の「石がある」は、10作品がノミネートされたインターナショナル・コンペティション部門のグランプリに選ばれ、日本映画の存在感を示した。

■完成度高いアカデミー作品

今年注目を集めた企画は国立韓国映画アカデミー(KAFA)の学生作品の特集だ。同アカデミーの開校40周年を記念し、40本の短編映画を7つのセクションに分けて上映した。

「社会問題を含む映画」セクションでは、貧困や産業化、外国人労働者といった韓国社会を取り巻く問題が新鮮な視点で描かれた。「大俳優の初期作」セクションでは、ファン・ジョンミンさんやチョン・へインさん、キム・テリさんらスター俳優の駆け出し時代の姿が見られた。いずれもワークショップや卒業制作の作品だが、脚本や演出、撮影技術のレベルは高く見応えがある。

制作にあたっては学生同士が互いにスタッフを務めるため、エンドロールに著名監督の名前が表示されているのも面白い。「2001イマジン」(チャン・ジュナン監督)の撮影担当としてクレジットされているのは、チャン監督の同期で後年「殺人の追憶」や「パラサイト 半地下の家族」が大ヒットしたポン・ジュノ監督だ。

韓国では多くの大学に映画を学ぶ学部や学科があるが、KAFAは特に難易度が高く、入学後の授業も厳しいという。実技や理論を徹底的に教育し、韓国映画界をけん引する人材を多数輩出。卒業生にはポン・ジュノ監督(11期)を筆頭に、「8月のクリスマス」「春の日は過ぎゆく」のホ・ジノ監督(8期)、「チョン・ウチ 時空道士」「10人の泥棒たち」のチェ・ドンフン監督(15期)、「明日へ」のプ・ジヨン監督(17期)らがいる。

KAFAは1984年にソウルに開校(18年に釜山に移転)した。軍事政権の時代から映画産業を国家事業として育成してきたことになる。学生作品の完成度の高さを見れば、KAFAの40年間の歩みが韓国映画の発展の基礎となっていることが実感できるだろう。

インターナショナル・コンペティショングランプリ「石がある」の太田達成監督(全州国際映画祭提供)

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