コリア国際学園、K-POPを学べるコースは生徒の大半が日本人 韓国への憎悪感情が先鋭化しても、経済や文化交流は進む

放課後の音楽室でダンスを踊る高校3年生。K―POPでの活躍を目指し韓国の大学へ進学する

 音楽室に響くポップミュージックに合わせて、壁一面の鏡の前で、3人の男性が一心不乱にダンスを踊っていた。2023年1月、大阪府茨木市にある中高一貫のインターナショナルスクール「コリア国際学園」(KIS)。3人は2021年に新設された「K―POP・エンターテイメントコース」に通う高校3年生で、今春から芸能を学べる韓国の大学に進学する。
 「K―POPのアイドルになって韓国で活躍したい」。そう話す3人は、いずれも日本人だ。在校生90人には在日コリアンや留学生も多いが、このコースに在籍する41人はほぼ全員が日本人で、K―POPスターに憧れる。その一方で、KISは韓国へ向けられた憎悪の対象にもなってきた。
 日本と韓国は、歴史問題によって政治・外交面で「戦後最悪」とされる状況に陥った。その一方で、経済や文化の交流は活発だ。日韓関係の改善に向けた動きが進む中、「対立」と「協調」という二つの側面を持つ日韓関係の実相を探った。(共同通信=佐藤大介)

 

インタビューで夢の実現への思いを語る田部井智紀

 ▽「ルーツがないからこそ、近づきたい」
 栃木県出身の田部井智紀は、通っていた中高一貫校を退学し、K―POPアイドルを目指して高1から編入した。「新しい流れをどんどん生み出して、日本や世界に発信している。レベルもすごく高い」と、韓国へ向ける視線は熱い。
 KISが開校したのは2008年。在日コリアンの実業家らが資金を出し、国家や思想にとらわれない人材育成を理念とする。コースでは、歌やダンスをプロ講師が指導し、K―POPの歴史やビジネスの知識も教える。英語や韓国語の授業のほか、韓国の大学や芸能プロと連携しているのも特徴だ。

「K―POP・エンターテイメントコース」の授業で、藤沢敬子(右)の指名を受けマイクを握る生徒

 コースが新設された際、中2から高2まで13人の新入生、編入生を迎えたが、教職員が一様に驚いたのは全員が日本人だったことだ。K―POP教育部長の藤沢敬子は「(アイドルの)成長を売りにする日本の芸能界とは違い、韓国の完成したパフォーマンスに憧れる生徒が多い」と話す。その背景は「自らに(韓国の)ルーツがない分、近づきたい気持ちが強いのではないか」とみる。
 生徒たちは放課後、午後8時までダンスの練習をこなす。そこには、さながらオーディション会場のような熱気が漂っていた。

放課後の音楽室で熱のこもったダンスの練習をする在校生

 ▽向けられた直接的な暴力、深夜に校舎が炎上
 校長の李相創が異変に気付いたのは、2022年4月5日朝に出勤した時だった。校舎1階のエントランスホールにくすぶっている段ボールを見つけ、消防に通報した。校内の防犯カメラには同日午前2時ごろ、炎が上がって明るくなる様子が写っていた。「ただ驚きしかなかった」。李は、そう振り返る。
 6月、30歳の無職の男が建造物損壊などの容疑で大阪府警に逮捕された。男は公判でこう証言した。「(在日コリアンを)野放しにすると日本人が危険にさらされると思っていた」。犯行の動機については「嫌がらせ」をすれば「日本から去って行くと思った」と述べている。

放火現場付近で発見時の状況を説明する校長の李相創=大阪府茨木市のコリア国際学園

 それまでにも、学校に電話をかけてきた男性が「国へ帰れ」との言葉を投げ付けてきたり、校舎の壁に「コリア」といたずら書きをされたりしたことはあった。だが、直接的な暴力を向けられたのは初めてだった。
 近所に設置されていた防犯カメラには、学校を見ながら歩いていく犯行直前の男の姿が写っていた。「今まで感じたことのない、不気味な恐怖を感じた」。映像を目にした事務長の金玉伊は、表情を曇らせた。

「K―POP・エンターテイメントコース」の授業の様子=1月、大阪府茨木市のコリア国際学園

 ▽ネット上にあふれる差別の言葉、憎悪感情が先鋭化
 なぜ韓国に向けた憎悪も根強くあるのか。差別問題に詳しい弁護士の師岡康子はこう指摘する。「歴史問題などであおられている韓国政府に対する反感が、コリアン全体への差別や偏見に結び付いている」
 2021年7月、在日本大韓民国民団(民団)愛知県本部が放火され、8月には在日コリアンが多く住む京都府宇治市の「ウトロ地区」でも民家に火が付けられた。ウトロ地区を長年取材するジャーナリスト、中村一成は懸念を深めている。「インターネット上にあふれる差別の言葉によって、憎悪感情が先鋭化していく可能性がある」
 2022年11月、KIS理事長の金淳次は、大阪地裁の法廷で意見陳述書を読み上げる際、被告となった男の名前に「君」を付けて呼びかけた。「何が短絡的な行動に駆り立てたのか。彼の心の内を知りたかった」。男は無表情で金を見つめていたという。
 大阪地裁は2022年12月、執行猶予付きの有罪判決を出し、確定した。「ゆがんだ正義感に基づく独善的な犯行」としたが、差別犯罪との言及はなかった。金は判決後の記者会見でこう述べ、怒りをにじませた。「判決ではヘイトクライムに対する言及がなく、不十分であったと思わざるをえない。この事件は政治、教育、宗教に対するテロ行為で、社会に大きな衝撃を与えた。日本社会では外国人に対する差別が根強く残っている」
 もう一つ、判決後も抱いている思いがある。「本人が謝罪に来るのなら受け入れたい。向き合って話をしたい」。その願いは、まだかなっていない。(敬称略)

インタビューに答える静岡県立大の小針進教授

 ▽「文化交流で楽観視できず」
 日韓の「対立」と「協調」について、小針進・静岡県立大教授に聞いた。
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 韓国文化を好きな人が増えても、日韓間の政治・外交関係をはじめ、日本人の対韓感情全般の改善にはつながらないだろう。文化交流が盛んになっているからといって楽観視してはならず、外交関係悪化を深刻に受け止める必要がある。
 だからといって、韓国文化の人気はコスメ、大衆文化、グルメなどの消費行動が対象となっているに過ぎないと過小評価してはいけない。韓国文化に日本人がこれほど「共感」した時代がかつてなかったこともリアルに見つめるべきだ。
 文化を巡る肯定的な動きは、長い目で見れば相互理解につながると信じたいが、それほど単純ではない。大学で教えていると、韓国文化に関心を持つ学生は多いと実感する。韓国語の学習者もかつてないほど増えている。こうした学生たちの多くは、文化と政治を巡る認識の差に違和感を覚えている。
 若者が日韓関係という課題にぶつかり、勉強してみようという意識が生まれるのは望ましいことだ。だが、それは相手国の政治的姿勢を支持することにはならず、むしろすっきりしない感情が増すばかりとなっている。
 実は、こうした感情は、1980~90年代に日本の大衆文化に強い関心を示した韓国の若者がすでに抱えていた。J―POPやアニメを羨望(せんぼう)のまなざしで見ていた韓国の若者は、教育での日本観とのギャップにジレンマを感じていた。この層が大人になったからといって、韓国人の対日外交に対する意識が改善されたわけではない。
 日本の「嫌韓」は旧来の「朝鮮人差別」とは異なり、日本へ無理解な韓国社会の一部の動きと連動していると思う。韓国の政官界やメディアの「反日」に対する反発として説得力を持っているからこそ、その言説に一定の支持がある。
 韓国の一部学者や法曹人は、歴史問題を法廷で日本政府へ問うことに固執してきたため、日本の首相が何度謝罪しようが、元慰安婦や元徴用工問題などで人道的な支援をしようが、評価しない。こうした韓国での動きに対してヘイトスピーチで対抗するのは問題だが、被害者意識としての「嫌韓」という現象が生まれるのは不自然ではない。
 韓国の「反日」と日本の「嫌韓」を巡る負の連鎖は、文化交流だけでは遮断しえない。政治・外交関係の安定が必要だ。
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 こはり・すすむ 1963年千葉県生まれ。東京外語大卒。韓国・西江大大学院修士課程修了。在韓日本大使館専門調査員などを経て、2007年から現職。専門は現代韓国・朝鮮社会論。

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