野村証券福井支店が閉店、74年の歴史に幕 業務提携の福井銀行へ50人出向、共同で金融商品販売

 野村証券の福井支店(福井県福井市)が5月12日、福井銀行との業務提携のため閉店した。15日からは支店社員の約50人が福井銀に出向し、共同で金融商品の勧誘や販売を行う。74年の歴史ある支店を閉じて関係を深める背景には、両社が互いの強みを生かし、「貯蓄から投資へ」のニーズを呼び込みたい思惑がある。

 野村と地銀との提携は北陸で初めて。福井銀は、会社分割の手法で投資信託や公共債などの口座を野村に承継。野村の社員を受け入れ、県内4カ所に設ける「コンサルティングプラザ」を拠点に、野村の金融商品を仲介し、勧誘からアフターフォローまでを担う。野村は、法人向け一部業務については福井市に新設する「福井法人部」に移管する。

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 野村の福井支店開設は、東証で戦後の取引が始まった1949年(当時は福井営業所)にさかのぼる。現存する110支店のうち27番目に古く、昨年7月の会見で奥田健太郎社長は「福井県は創業者の母の出身地で、大切な地域」と思いを打ち明けた。大切な地域の看板を外して提携したのは、福井銀が抱える顧客にアクセスできる利点があったためだ。

 福井銀の2023年3月末時点の預金残高は2兆8623億円。政府が「資産所得倍増」「貯蓄から投資へ」の旗印を掲げる中、福井銀の顧客と預金は経営強化の源泉となる。野村は営業拠点が福井支店1店舗だったが、提携で4カ所に増えるメリットもある。

 一方の福井銀は、コロナ禍もあり足元で預金が急増。銀行は預金などで集めた資金で融資を行い、利ざや(貸し出しと預金の金利差)を稼ぐのが本業。2023年3月末の貸出金利回りは15年ぶりに上昇したが、超低金利で経営を取り巻く環境が厳しい状態は依然として続いている。

 顧客が預金を投資に振り向ければ販売手数料が期待できるが「豊富な金融商品をそろえ、販売のノウハウも豊かな証券会社に地銀はかなわない。これから専門社員を育成するより、野村と手を組んで仲介手数料を受け取る形の方がいい」(関係者)というのが本音だ。

 12日の決算会見で、長谷川英一福井銀頭取は「証券会社は顧客の預金残高などが分からない中での営業だったが、銀行は重要な情報も営業拠点もある。お客さまにしっかりとした情報と商品を提供し、資産所得の倍増につなげていくのがわれわれの責務だ」と力を込めた。福井銀は2社合計の投資信託、個人向け国債、株式などの県内預かり資産残高(預金除く)を現状の約3600億円から5年後に5千億円へ引き上げる目標を立てている。

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