妊産婦の心ケアへ連携密に 精神科、産婦人科、保健師… 八戸市民病院(青森県)

医師や看護師、保健師らが妊産婦のケアについて話し合っているミーティング=4月、八戸市民病院周産期センター(同病院提供)
「周産期のホルモンの異常は誰もが起こり得る」と語る佐々木さん=4月、八戸市

 妊産婦への心のケアの重要性が青森県内でも叫ばれている。妊娠・出産期の女性はホルモンの異常などで、心の状態が不安定になりやすい。産後うつによる自殺や子どもへの虐待リスクも指摘されている。八戸市立市民病院では、精神科と産婦人科、保健所の保健師らが密接に連携し、妊産婦の心の健康回復に努め、実績を上げている。

 「この女性のケースでは、薬は無理に使わず、心理的サポートで様子を見た方がいいのでは」「保健師や児童相談所によるサポートも必要だ」-。

 同病院では月に2回、産婦人科や精神科、小児科の医師のほか、看護師、助産師、ソーシャルワーカー、心理士らが集まり、出産前と出産後の女性のケアについて話し合っている。支援が必要な妊産婦には、入院や薬物治療など適切な医療を提供している。

 医療・福祉・保健分野の多職種連携は、岩城弘隆・精神神経科部長らの働きかけで2年前から展開されている。「妊産婦はホルモンの乱れにより精神的に不安定になることがある。産後2週間で、約1割の女性がうつ病になるというデータもある」と岩城部長は説明する。八戸地域ではかつて、心の病を抱えた妊婦が自ら命を絶った苦い経験もあり、同病院は周産期のメンタルヘルスに力を入れている。

 同病院周産期センターの田中創太センター長は「精神科医によるケアが入ると、妊産婦の表情がとても良くなる。心の専門家の支援は、非常に心強い」と語る。

 同センターの古屋敷智美師長は「核家族化などを背景に、妊産婦が周囲に頼れる人がいなく、孤立するケースが増えている」と支援の必要性を述べ「DV(ドメスティックバイオレンス)被害や10代の妊娠、知的障害など、複雑な問題を抱えるケースもあり、多職種連携はより重要になっている」と話した。

 妊産婦の心のケアは全国的な課題となっている。県内では特に、精神科医が少なく、多忙なため、綿密な連携が難しいという実情もある。八戸市民病院の取り組みは、「八戸モデル」として医療関係者の会合で発表され、注目されているという。

▼「支援なかったら今の自分ない」

 「うつ病の治療を受けていなかったら、今の自分はなかったかもしれない」

 昨年春、子どもを出産した八戸市の佐々木亜衣子さん(30代)=仮名=は東奥日報にこう語った。

 佐々木さんは出産を数カ月後に控えた昨年冬、心の異変を感じた。「食欲が落ち、何もする気が起きなくなった。産休に入り、環境が変わったのも影響したのかもしれない」。八戸市民病院の精神科を受診。軽・中度のうつと診断された。急な動悸(どうき)や発汗に悩まされ、涙が止まらないなど症状は徐々に悪化。岩城弘隆・精神神経科部長の強い勧めを受けて、精神科病棟に入院した。「当時は外の社会で楽しくしている人を見るのが嫌だった。自ら命を絶つことも頭をよぎった」

 数週間後、周産期センターに移り、出産したが、生まれたばかりのわが子を見ても「ちゃんと育てていけるのだろうか」と不安ばかりが募った。

 退院後も気分の落ち込みが続いたが、保健師、看護師らの定期的なケア、見守りを受けて徐々に心の状態が安定。家族の励ましや付き添いも生きたいと思う力になった。

 退院1カ月後には、佐々木さんらしい本来の明るい性格に戻った。今年2月で精神安定の服薬を終了。今では子育ての喜びを感じている。「出産前後の時期は人生で一番つらい時期だった。周産期のうつは誰もがなり得る。ホルモンの異常にはあらがえない。周囲の支援が大切だと思う。心の不調を感じたら医療機関に相談した方がいい」と語った。

 八戸市の杉田ユカさん(30代)=仮名=は妊娠中の2021年夏ごろからうつ病になり、食欲不振、無気力などの症状に襲われた。一日の大半を寝て過ごし、子どもを産むことに負の感情を抱くこともあった。身内に自ら命を絶った人もおり、悲しい思いをしただけに「自分から不幸な出来事を生み出してはいけない」と言い聞かせながら、八戸市民病院の精神科と産婦人科の治療を受けた。

 切迫流産の危険もあったが昨年冬、同病院周産期センターで無事男児を出産した。「何か一つでも周囲の支援が欠けていたら自分は崩れていた」と振り返る杉田さん。現在、新たな命を体内に宿している。

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