「闇バイト」22歳女のうつろな目 家出、援交、借金重ね「ゲームの中で尊敬された」

特殊詐欺に関わった被告の女は、今後は光の当たる道を歩いていけるだろうか ※写真は本文と関係ありません

 2020年のTBSの刑事ドラマ「MIU404」では、「ピタゴラ装置」が象徴的に描かれる。転がるパチンコ玉が障害物にぶつかると、別の仕掛けが連鎖して動き、パチンコ玉は予想もしなかった所に行き着く。星野源さんが演じる刑事は、さまざまな事情で罪を犯した人々の人生になぞらえ、「障害物の数は人によって違う。正しい道に戻れる人もいれば、取り返しがつかなくなる人もいる」とつぶやく…。

 2月22日の大津地裁。刑務官に連れられ出廷した女(22)が、傍聴席に視線を向けた。うつろな瞳。声はか細く、その口調や身ぶりは丁寧だった。

 女は、3件の特殊詐欺事件で実行犯として関わった罪に問われた。銀行員などを装って3人の高齢者からキャッシュカードをだまし取り、計170万円余りを引き出した。

 被告人質問で高齢者を前にした時の気持ちを問われ、「犯罪をしているんだという感覚でした」と明かした。どこか人ごととして語っているように聞こえた。続く質問で、彼女の抱えていた事情が徐々に明らかになった。

 両親が離婚し、母親と2人で暮らしていたが、仲は悪かった。母親は、思うようにならないと娘に矛先を向けた。中学時代に家出をし、高校時代には1人暮らしをした。だが、父方の親戚を頼っていたことを知られ、連れ戻された。洗濯機や風呂場を使わせてもらえず、事件の半年ほど前、家を出るように言われた。

 幼い頃に教師から発達障害の疑いを指摘された。だが、それを母親に伝えても相手にされなかった。学校でも人間関係をうまく築けなかった。

 仕事も長続きしなかった。体調不良で休んで職場にいられなくなっては、辞めることを繰り返していたという。他人からの評価を過度にマイナスに受け止める性格のようだ。

 見つけた居場所はオンラインゲームの世界。そこでつくった借金は100万円に膨らんだ。アパートの家賃が払えなくなった。

 交流サイト(SNS)上で犯罪の実行犯を募る「闇バイト」に応募したが、1カ月ほどは仕事を断った。「やりたくない思いが強かった」。だが、指示役に個人情報を渡しており、断り続けることはできなかった。犯行後に手に入れた報酬は5万円。交通費を払うと底をついた。その後は援助交際をして家賃の支払いに充てた。

 福祉に頼る力はあったが、生活困窮者相談で受け取ったのはわずかな食事と給付金だけだった。生活保護を申請しても、近くに住む祖父を頼るよう言われ、認められなかった。

 弁護士に多重債務の相談もしたが、賃貸契約を解除される可能性があると示唆され、諦めた。行政も法律家も、手を差し伸べることはできなかった。

 今後は、滋賀の支援団体にサポートしてもらえるという。「母親のところに戻るつもりはあるか」と問われると、「ありません」と即答した。ゲーム依存を断ち切れるか聞かれ、すぐにやめるのは難しいと返す。「そこにしか逃げ道がなかった。ゲームの中ではある程度尊敬してもらえた」

 被害者への謝罪の言葉を口にすると、傍聴席を見ながら法廷を後にした。生気のない目だった。

      ◇

 3月8日。無造作に髪を束ね、さらに疲れた表情で出廷した女に言い渡された判決は、懲役1年6月の実刑。裁判官は、女に同情の余地があるとしつつ、自ら闇バイトを検索し、積極的に応募したことを重く見た。「犯行に至る経緯には気の毒なところがあると感じたが、関わった事件の大きさを考えると実刑はやむを得ない」。裁判官の言葉を、女は背筋を伸ばしてじっと聴いていた。

 近年は、安易に特殊詐欺に加担した罪は厳しく裁かれる傾向にある。被害者のことを考えると当然だろう。ただ、彼女の場合、何か一つでも環境が違っていれば、犯罪に手を染めなかったような気がしてならない。

 

© 株式会社京都新聞社