G7広島サミット 取材の舞台裏は? 開催がもたらすチャンスと課題 8回 サミットを取材した青山和弘さんに聞く(RCCラジオ)

G7広島サミット(5月19日~21日)では、各国首脳はもちろんなんですが、世界中からメディアも集まります。実際のサミット取材の現場はどうなのか、サミット取材経験も豊富な政治ジャーナリストの 青山和弘 さんに聞きました。

政治ジャーナリスト 青山和弘 さん
サミットが開催されると警備も厳しくなりますし、交通規制などで広島のみなさんには不便をかけると思うんですね。しかも、先日、和歌山で爆弾事件が起きたことから、警備がまたいつもより厳重なんですよね。また、サミットでどんな成果が上がるのかと言われても、これが外交なので劇的に何かが変わるということはないです。ただ、世界情勢が混沌としている中で、主要7か国の首脳が一堂に会するという意義は非常に大きいですね。

それと、広島という地名は世界中に轟いています。ただ、広島は世界中のほとんどの人がどんなところか知らないと思っているんです。だから、この広島のよさをアピールするという意味では絶好の機会だと思います。前回の伊勢志摩サミットでもインバウンドの増加を含めると1500億円ぐらいの経済効果があったといわれています。多少の不便は生じるかもしれませんが、広島を知ってもらうことは大きなチャンスでもあります。世界への発信と世界の進歩に貢献する機会という意識を持っていただければと思います。

本名正憲 アナウンサー
その意義というものも確かにあると。今、お話がありましたけれども、特に非常に世界平和というものが危機に立たされているということは間違いないですね。ロシアとウクライナの問題、それから中国の動きも気になると。広島で開催するっていうことは意義ありますよね。

青山和弘 さん
もちろんですね、やっぱりロシアは核兵器の使用をちらつかせ、それを威嚇に使っています。北朝鮮も核開発を進め、中国も核弾頭を増やしています。このように核の脅威が高まった時期は、戦後77年間で初めてともいえます。そのような中で、広島に各国の首脳が集まり、この7か国だけでなく、“アウトリーチ” というインドやブラジルなどの首脳も参加します。これらの人々を広島の原爆資料館に案内するのが今回のサミットの1つの目的がありますが、これだけでも大きな意味があると思いますね。各国の首脳が実際に広島を訪れる機会はなかなかないですが、今回は岸田さんが一斉に連れて行くことで、核兵器の恐ろしさを再認識してもらえれば、それが何かのきっかけになる可能性もあるので、意義は大きいと思います。

本名アナ
特に核保有国のリーダーたちが被爆の実相に触れることで、心を動かしてもらいたいという思いがありますよね。

青山和弘 さん
ええ、その通りなんですね。やはり口で「怖いね」とか「危険だね」と言うのは簡単なんですけど、実際にその場に触れて、心の底から感じるという機会はなかなかないと思います。逆に言うと、日本ができる核戦争防止の動きというのは、実は広島や長崎での実相に触れてもらうことが最大の貢献なんじゃないかと、わたしは思います。

本名正憲 アナウンサー
青山さんはこれまでサミットの取材経験が豊富とのことですが。

政治ジャーナリスト 青山和弘 さん
現地への取材はもう8回になります。最初は2008年、前々回の日本での開催だった北海道の洞爺湖サミットが最初でした。それから8回、現地に行って取材をしました。

本名アナ
洞爺湖サミットでは地球環境問題や温暖化対策がテーマでしたよね。

青山和弘 さん
ちょうど温暖化問題が盛り上がり始めたころで、安倍さんが洞爺湖を選んだんですけれども、実際にそのときは 福田康夫 さんが総理大臣で洞爺湖サミットを行いました。そのときの思い出といえば、洞爺湖は温泉街ですよね。わたしはプレスとして行くんですが、各国のプレスが来て、プレスルームの近くには共同の温泉が開かれたんですよ。各国の外交官たちもやってきて、わたしも日本の外務省の人たちと一緒に温泉に入りました。これは、日本の温泉街で開かれたサミットだからこそできたことで、ほかのサミットではそんなことは絶対になかったので、洞爺湖ならではでした。

本名アナ
裸のつきあいで何かネタとれました?

青山和弘 さん
ネタはさすがに取れなかったが、裸のつきあいをした人はイスラエルの外交官になったりしていますよ。

本名アナ
海外での取材のご経験は?

青山和弘 さん
もちろんフランス・イタリアの経験があります。また、わたしはワシントン支局長もやっていたので、アメリカのオバマ大統領と一緒にサミット取材をしたことも2回あります。日本の記者団としてではなく、アメリカの記者団と同行する形で大統領の記者会見やアメリカ政府の発表を取材した経験もあります。

本名アナ
エアフォースワンに一緒に乗りました?

青山和弘 さん
アメリカはエアフォースワンに記者をそんなに乗せないんですよ。日本の政府専用機はたくさん記者を乗せるけど、アメリカはそうでないんです。

本名アナ
広島のメディアセンターが開いたんですが、そこには報道陣が大勢来ることになります。各国のメディアセンターはそれぞれお国の特色がありますか?

青山和弘 さん
日本のメディアセンターは、非常に細やかな心づかいがあるんですよね。たとえば、食事が用意されていたりします。一方、アメリカのメディアセンターは、ざっくりとした感じで、食事の用意はあまりなかったかもしれません。

国際メディアセンターというのは、全世界からメディアが集まる場所で、共同記者会見を行ったり、中継を行ったりします。前回、日本が開催した伊勢志摩サミットでは、「日本酒の試飲会」などの開催時間が記載されたイベント表があり、各国の人々が来て、日本の日本酒を飲んだり、伊勢エビの試食会があったりといったこともありました。そのようなことを通じて伊勢志摩の人々は自分たちの名産品をPRし、各国の人々は「伊勢志摩はこういうところなんだ」ということを学び、それを記事にしてもらうという感じでした。インバウンドにもつながるという意味があります。メディアセンターはそういう場所でもあるんですね。

観光地としての広島については、まだ知らない人も多いと思います。前回の伊勢志摩サミットでも、その結果として観光客が増えたと三重県知事が話していました。これは広島をアピールするチャンスととらえてもらえたらいいと思います。

本名正憲 アナウンサー
開催地は今回、岸田さんが広島選出ということで広島になったと思いますが、この総理の判断というのが大きいんですよね?

政治ジャーナリスト 青山和弘 さん
前回の伊勢志摩サミットも安倍さんが決めましたが、伊勢神宮に各国の首脳を連れて行きたいという思いが強かったんです。そこは、日本の大和魂の原点ともいえる場所ですから、そこで各国首脳が石の上を静かに歩く、まさに日本の原風景の中に各国首脳がいるという光景を見せたかったんですね。それは、まさに安倍さんらしい発想だと思います。

本名アナウンサー
G7サミットはセレモニー的な部分もありますが、どのようにお考えですか?

青山和弘 さん
セレモニー的な部分もあるが、実質的な意味合いもけっこうあります。各国の首脳が核兵器の実態について触れる機会でもありますし、ウクライナ問題や対中国問題などで、各国が足並みをそろえるということは、ロシアや中国を封じ込める意味でも大事なことです。特に日本などは、防衛費を増やすという提案に対し、外交に力を入れるべきだという意見が多いですよね。

まさにその外交そのものがこのサミットなんです。各国の首脳との意見の調整や考えの共有が、その後の平和の展開にプラスになることは計算に入れられないものです。数値化できないけれど、計り知れない価値があるんです。だからこそ、このサミットの意義は非常に重要で、単なるセレモニーとは言い切れないところがあります。

本名アナ
今回のサミットで、岸田総理はどんな思いで臨まれるんでしょうか。

青山和弘 さん
岸田さんは、すごい意気込みを持っています。外務省の人たちと一緒に、失敗は許されないという強い緊張感を持っているようです。たとえば、官邸の入口には「広島サミットまであと何日」という掲示板があり、総理の執務室にも関連するポスターが貼られているそうです。このサミットは総理にとって重要な舞台で、特に外交や安全保障に自信を持つ岸田さんにとって、この機会を単なるセレモニーで終わらせず、内容のあるものにしたいという意志が強く感じられます。

本名アナ
サミットの結果は、内政にも大きな影響を与えるでしょう。成功すれば支持率は上がるだろうし、解散がどうなるのかについてもさまざまな推測が飛び交うでしょう。

青山和弘 さん
政権の浮揚につなげたいという思いはもちろんあるでしょう。しかし、一方で政策面でも影響があります。例えば、防衛費の増加や増税について、日本がサミットで約束したからこそ強化する必要があるという説得材料として使う可能性があります。

前回の伊勢志摩サミットでは、安倍さんが、現在の経済状況がリーマンショック前夜と同じだという内容の文書を外務省に知らせずに首脳に配り、経済の下支えをしなければならないため消費税を上げられないという論理を展開しました。その数日後に消費税の2年半延期を決めたのです。つまり、サミットでの発言が国内の政策にも影響を与えました。自身の政策に利用することはよくあることで、岸田さんもそういったことを考慮しているでしょう。選挙で政策を問う際の1つの後ろ盾として利用したいという意図もあると思われます。

本名アナ
そしてもう1つ、ウクライナに1日も早く平和が訪れますようにと。

政治ジャーナリスト 青山和弘 さん
ウクライナの戦争が始まって1年ちょっと経った今、非常に重要な時期に差し掛かっているときに開催されるサミットなので、岸田さんも重要性を理解しています。そのため、岸田さんにとってウクライナ訪問は絶対条件だったんです。外務省幹部をしかり飛ばして、かなり強引にウクライナに行ったんですね。この経験を生かし、今後のロシアの制裁の発表や、リモートで参加するゼレンスキー大統領との対話など、どのように生かしていくかが岸田さんの手腕の見せ所となるでしょう。

(RCCラジオ「おはようラジオ50周年企画 G7広島サミット直前スペシャル 広島の声」5月14日(日)放送より)

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