「悪いとは分かっていたが…」 転売目的で口座開設した五島の男女 困窮の果て

男と女は通信アプリなどを使って通帳とキャッシュカードを転売した(写真はイメージ)

 「悪いことと分かっていたが」-。ニセ電話詐欺で金を振り込ませ、だまし取る際、多重債務者から渡ってきた銀行口座などの悪用が頻発している。第三者に転売する目的で口座を開設した後、口座が詐欺に使われ、逮捕された五島市の男女の裁判を傍聴した。
 男(55)と女(62)は内縁関係で、罪名はいずれも詐欺。2人は昨年7月4日、同市内の金融機関で生活費決済や貯蓄用などと偽り、口座を開設。さらに同8月、同市の別の金融機関でそれぞれ口座を作り、計8冊・枚の通帳とキャッシュカードを手に入れた。
 口座を買い取る密売人とのやりとりは、電話や通信アプリLINE(ライン)、テレグラム。二人は指定された場所に通帳とキャッシュカードを郵送し、報酬計5万円を得た。
 その後、2人と無関係の男たちが、九州各地や関東のコンビニエンスストア内のATMで、男女から渡ったキャッシュカードで現金を引き出したことが判明。使われた口座記録を調べると、通帳などを転売した2人にたどり着いたという。
 検察側の冒頭陳述などによると、2人は五島市出身。男は高校中退後、パチンコ店や土木業を転々とした。女は長崎市の高校卒業後、看護師だったが、50歳ごろ、五島市にUターン。2人とも仕事が長続きせず、生活は不安定だった。
 生活保護や障害年金などを受けていたが、男はパチンコで浪費し、女はアルコール依存症で酒やタバコに金をつぎ込んだ。入院中に知り合い、同居を始めたが金に困ることが増えた。友人や銀行、消費者金融に借金を重ねた末、法定を超える高利息で金を貸し付ける「ヤミ金融」に手を出したが、返済は滞った。
 「通帳やキャッシュカードを買い取る」。ヤミ金融側からこう持ちかけられると、2人は転売目的で通帳などを取得。困窮の果て、詐欺に手を染めたという。

ニセ電話詐欺の県内被害状況

 県警組織犯罪対策課によると、口座詐欺の摘発は▽2020年=14件、12人▽21年=6件、4人▽22年=9件、2人。口座売買が厳罰化され、口座が手に入りにくい現在、犯行グループの手に渡った口座はすぐに使用上限額まで悪用される。
 判決は2人とも懲役2年、執行猶予4年(確定)。男は体を震わせ「刑務所に行くのは怖い」、女はしゃがれた声で「もう二度とこんなことはしないと誓う」と反省する言葉を口にし、法廷を後にした。

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