長崎・壱岐で医療的ケア児を在宅看護 支援の担い手不足で負担増 「ずっと一緒に」願う家族 

染色体異常症の磨梨生ちゃんを在宅看護で見守り、支え合う長村さん一家=壱岐市郷ノ浦町、長村さん宅

 離島の長崎県壱岐市で日常的に人工呼吸器などが必要な「医療的ケア児」を在宅看護する家族がいる。郷ノ浦町の会社員、長村篤史さん(49)と看護師の妻佐知子さん(45)。1歳10カ月の三女磨梨生(まりい)ちゃんは染色体異常症「18トリソミー」。リビングには介護ベッド、人工呼吸器とモニターが置かれ、1日中アラーム音が鳴っている。佐知子さんは「壱岐でも安全安心に暮らせる社会の仕組みを確立していきたい」と話す。
 同症は通常2本しかない18番目の染色体が3本あることで引き起こされ、合併症などのリスクから生後1歳までの生存率は10%未満とされる。佐知子さんは妊娠初期に胎児が同症と診断され、救命措置を希望。2021年7月、福岡市立子ども病院で出産した。心臓と呼吸に異常が見つかり、心臓の血管が細かったが、他の血管が代役となり「奇跡的に心臓が持ちこたえ、担当医も驚いた」という。
 磨梨生ちゃんは新生児向け集中治療室(NICU)や新生児回復治療室(GCU)で約7カ月過ごした。新型コロナウイルス禍で面会制限があったが、佐知子さんは何度も福岡へ通った。
 夫妻は長女曖里衣(あいりい)さん(10)、次女梨多(りた)ちゃん(6)と家族一緒にいさせてあげたいと希望。ただ、壱岐市内の病院には専門設備がない。医師から安全安心のため、人工呼吸器から空気を送る管を通す気管切開手術を勧められ、決意した。手術は無事に終わり、壱岐に帰る準備を進めたが、医療的ケアが常時必要で公共交通機関は利用できない。病院側の配慮で22年3月、主治医と看護師が付き添い、防災ヘリで保育器ごと運ばれた。
 転院先の県壱岐病院では主治医が異動で1年ごとに変わる。転院後の小児科医は同じ症状の患者を診た経験があったが、今年4月からの新しい主治医は同じ久留米大からの派遣医で、前任と連絡を取り合いながら診療を続けている。
 現在、佐知子さんは育休中。訪問看護やヘルパー、保健師の訪問など、病院や社会福祉協議会、行政からサポートを受けている。しかし、4月から人員不足のため訪問看護の回数が減った。ヘルパーによる補充はあるが、1日5回の経管栄養補給、人工呼吸器のホースの水抜きなど、午前6時から深夜の午前2時過ぎまで定期的にケアが必要で、家族の負担は増えている。
 看護家族の休養を目的とした短期入院ができる施設が島内にないことも負担。育休期限が迫り、現状では復職は難しいという。
 厚生労働省によると、自宅で暮らすケア児(0~19歳)は全国で約2万人と推計される。医療技術の進歩に伴って新生児の救命率が向上し、約10年間で2倍に増えた。21年施行のケア児支援法では、ケア児と家族への支援を国や自治体の責務とし、日常生活支援や相談体制の整備、支援する人材の確保を明記している。
 市が把握する島内の18歳未満のケア児は現在5人。市は4月に「いきいろ子ども未来課」を設置し、ケア児や家族への支援方針を検討し、決定を迅速にするとしている。
 夫妻は「自治体に今できることはしてもらっている」と感謝。ただ、「(訪問看護など)受けられるべきサービスが十分受けられない現状を改善していかなければならない」と指摘する。
 「今後、在宅医療は増えていくと思う。三女が島に帰ってきた意味として、これから先の医療的ケア児や家族が壱岐でも安全安心に暮らせる社会の仕組みを確立するよう声を上げていくのが使命と考えるようになった」という。
 「本当はずっと一緒にいたい。ずっと奇跡が続いていてほしい」と打ち明けた。


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