急増する梅毒…感染を疑うべき症状や治療方法は 福井市では匿名の無料検査実施へ

「梅毒感染を疑う姿勢が重要」と話す酒巻一平医師=5月17日、福井県の福井市保健所

 福井市保健所(福井県福井市)は5月22日から、市内在住者を対象にした性感染症の梅毒の無料検査を始める。匿名で受け付け、夜間を含めて月2、3回実施する。昨年の県内感染者は65人に上り、現行の統計形式となった2006年以降で最多。市保健所の佐藤一博所長は「流行を食い止めるため、感染の可能性のある人は速やかに受診してほしい」と呼びかけている。

 市保健所によると、県内で梅毒感染の無料検査を行うのは初めて。

 県内の感染者数は18年以降減少傾向だったが、21年は27人と前年の13人から倍増した。今年に入ってからも週に2人程度の感染が確認されているという。22年の65人のうち福井市内の患者が7割を占めており、感染拡大を防ごうと福井市医師会と協議し無料検査の実施を決めた。

 梅毒は「梅毒トレポネーマ」という細菌に感染して発症する。感染経路は主に性行為だが、粘膜の接触でうつるためキスでも感染する。血液検査で、感染直後は分からないケースもある。

 検査対象は、感染可能性がある機会から2カ月以上経過している市内在住者。電話での事前予約制で▽第2月曜の午前9時20分~同10時40分▽第3月曜の午後2時~同3時40分▽第4月曜の午後5時~同6時40分-の中から毎月2、3回実施する。

 予約時に、本人確認の代わりとなる4桁の数字を決めて受け付ける。希望者はエイズウイルス(HIV)、肝炎検査を無料で追加できる。検査結果は1週間後に来所し、確認する。予約、問い合わせは市保健所(平日午前8時半~午後5時15分)=電話0776(33)5184。

 厚生労働省によると、全国の梅毒感染者は22年10月末で1万人を超えた。男性は20~50代が多く、女性は20代が突出しているという。

⇒胎盤を介して赤ちゃんうつったケースも

医師が解説…梅毒を疑うべき症状や治療方法

 感染症が専門で、多くの梅毒患者を診察してきた福井大学医学部教授の酒巻一平医師(57)は「梅毒の特徴を理解し、自身で感染を疑う姿勢が重要」と強調する。症状や治療方法について聞いた。

 -梅毒の症状は。

 感染から1カ月程度の第1期では、粘膜接触した性器や口などに小豆大のしこりができたり、周辺のリンパ節の腫れが出たりする。3カ月ほどの第2期では、花びらのような紅斑「バラ疹」が手のひらや腕をはじめとする体全体に出る。晩期になると神経まひや動脈瘤(りゅう)などの恐れもある。妊娠中は胎盤を通じて胎児に感染するため、死産や障害が出る危険性がある。

 1、2期の症状には、かゆみや痛みが伴わないことがほとんどで、数週間程度で症状はなくなる。治ったと勘違いして自覚なく潜在的に感染を広げてしまう恐れがある。実際、近年発覚した人の多くは手術や入院時の事前検査で感染が分かった。

 -なぜ感染が広がっているのか。

 主な感染経路は性風俗利用者や従事者からだったが、近年のSNS(交流サイト)やアプリの利用の広がりで、不特定多数との接触機会が増えているのが一因とみられる。ほかの性感染症に比べて感染力が高いことも要因に考えられる。

 -治療方法は。

 感染初期では、1カ月程度の服薬か注射で早期の完治が見込める。早く見つけて早く治療することが何より大切。晩期になると、入院や数カ月にわたる服薬が必要になるなど、負担も大きくなる。インターネットでは、治療薬や検査キットとうたった取り引きも散見されるが危険。感染を疑うときは病院を受診してほしい。

 -流行を防ぐには。

 予防は性行為時のコンドーム利用が有効。無自覚の患者はまだまだ隠れていることが考えられる。過去にさかのぼって症状が出ていたことがないかを一人一人が確認してもらい、早めの検査をお願いしたい。

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