スマスイ、新たな航海に「光あれ!」 大水槽前でコンサート、夢かなえた和太鼓奏者のスマスイ愛

「和太鼓のソロコンサートをしたい」という夢をかなえた和太鼓奏者の溝端健太さん=須磨海浜水族園

 水量約1200トンの大水槽の前で「ドン、ドン、ドン」と和太鼓の音色が響いた。「35年の時を経て新たな海へのぞむとき。スマスイの行く末、光あれ!」。和太鼓を打ち鳴らしながら、奏者の溝端健太さん(34)=神戸市西区=が叫んだ。約20分間の演奏中、何重もの人だかりが沸きに沸いた。

 須磨海浜水族園(スマスイ、同市須磨区若宮町1)で13、14日にあった「あなたの夢を叶(かな)えます」と銘打ったプロジェクト。水族園ファンから実現したい夢を募る企画で、応募1174件から5組が選ばれた。

 溝端さんもその一人だ。西区生まれ。最も古い記憶だと、初めてスマスイに行ったのは小学校低学年のとき。たしか遠足だった。

 神戸西高校(現須磨翔風高校)で和太鼓を始め、20代前半まではアルバイトと演奏に明け暮れた。それでも、スマスイの年間パスポートを購入。作曲に行き詰まった時などは、自然とスマスイへ足が向いた。水槽の底で泳ぎ回る魚の群れからヒントを得て作曲したこともある。

 全国各地の水族館も訪ねたが、やっぱり、スマスイが1番だった。「素朴な展示が好き。凝った演出より純粋に魚が泳ぐ姿を楽しめる。外から眺める本館の三角屋根も気に入っている」

 ここ数年、手帳などに書き続けている「死ぬまでにしたいことリスト」でも、不動の1位は、スマスイでのコンサートだった。

 「海や波にまつわる演目を作ったこともある。スマスイで演奏することが、私の理想のシーンに最も近づけるはず」。スマスイのプロジェクトを知り、すぐに応募した。

 迎えた演奏当日。水族園と和太鼓の組み合わせの珍しさから、開演前のステージに来園者が集まり始めた。その数、50人以上。「大好きなスマスイで演奏できて本当に幸せ。皆さんの思い出に花を添える」。溝端さんはばちを握り、夢のコンサート開演を告げた。

 緩やかなテンポから少しずつ激しさを増す「潮流」や船乗りのかけ声を意識した「海の男」、アップテンポな調べにせりふを挟む「想(おも)い咲け」の計3曲を披露。約20分間、ほぼ休みなくばちを振り下ろし、額から大粒の汗がしたたり続けた。

 午後には同じ3曲に、教え子である中高生4人と共演したプログラムも追加した。「夢のお裾分けですよ。教え子にも『スマスイで太鼓を演奏した』と自慢してほしいじゃないですか」。念願かなった溝端さんは、ちょっぴり照れくさそうに笑った。

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 明日は、スマスイの夢プロジェクト「餌やり体験」に選ばれた那須佳那さん(38)家族の話です。実は、那須さんは2度目の餌やりだったそうです。その理由とは-。(千葉翔大)

■「夢」かなえた人を訪ねてーリニューアルへ5月31日で営業終了

 須磨海浜水族園がリニューアルのため、31日でいったん営業を終えます。前身の須磨水族館から35年前に衣替えし、遠足やデート、家族でのお出かけなど、誰にとっても思い出深い場所ではないでしょうか。

 東京育ちのワタクシ(27)もその一人。4年前、親元を離れて神戸で新人記者となり、初めて1人で取材したのが、スマスイでした。母が社会人となった息子の様子を見に、初めて神戸に来た際、真っ先に案内したのもスマスイ。一緒にイルカショーを見ました。

 閉園まで残り2週間。思い出が詰まったリニューアル前の姿を見納めようと、足を運ぶ人が増えています。スマスイによると、今月1~14日の入園者数は約5万3千人。昨年の同時期と比べて倍近いそうです。

 紙面でも思い出を語り合いたい-。そんな思いで「ワタクシ的スマスイ」と題したコーナーを設けました。まずは、スマスイを舞台に夢をかなえた人たちの紹介から始めたいと思います。(千葉翔大)

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