「最高裁は自分たちに置き換え考えて」重大少年事件記録廃棄 報告書公表前に神戸連続児童殺傷事件の遺族、土師守さん語る

神戸新聞の取材に思いを語る土師守さん=16日午後、神戸市中央区

 小学生2人が殺害された1997年の神戸連続児童殺傷事件をはじめ、各地で重大少年事件の記録が廃棄されていた問題で、連続児童殺傷事件で次男の土師淳君=当時(11)=を亡くした父親の土師守さん(67)が神戸新聞社の取材に応じた。最高裁は記録を廃棄した経緯などをまとめた調査報告書を5月中に公表するとしており、土師さんは「事件記録は(息子の)最期を残す重要な記録だった。最高裁は自分たちに立場を置き換えて問題を考えてほしい」と訴える。

 最高裁の内規では、少年事件記録のうち、史料的価値が高いものなどは保存期間満了後も廃棄せず、特別保存(永久保存)を義務付けている。しかし、昨年10月、神戸家裁で連続児童殺傷事件に関する事件記録の廃棄が判明。全国でも相次いで廃棄が発覚した。問題を受け、最高裁は経緯の調査に乗り出し、有識者委員会(座長・梶木寿元広島高検検事長)で記録保存の在り方を検証している。

 「淡い希望は永久にかなわなくなった」。昨年10月、事件当時14歳で逮捕された「少年A」に関する全ての事件記録が神戸家裁によって廃棄されたことが分かり、土師さんが会見で述べた言葉だ。

 事件が起きた97年当時の少年法では、被害者や遺族らによる事件記録の一部閲覧謄写や少年審判の傍聴はできなかった。法改正で現在は可能となったが、改正前の事件は対象外。土師さんは今も記録を見ることはできていない。「記録が残っていれば、法改正で記録を見られる日がいつか来るかもしれない」。家裁の記録廃棄はそんなわずかな期待も打ち砕いた。

 土師さんは少年事件記録を「被害者が生きた証し」「最期の生きざまが書かれた記録」と表現する。淳君の最期を記録したのは少年事件記録だけだという。「分からないことはいろいろある。事件記録だけで全てが分かるわけではない。でも、非常に重要な記録だった」と強調する。

 事件記録が失われた今、事件の真実を知る方法として残るのは、加害男性からの手紙のみとなった。「加害男性の弁護人や関係者らが事件記録に関する資料を残していれば話してほしいが、可能性は低いだろう」と土師さん。加害男性からの手紙は2017年を最後に途絶え、今年も届いていない。そうした状況を踏まえるとなおさら、記録廃棄への憤りは強くなる。「ええ加減にしてくれ」と。

 最高裁による調査で詳細な廃棄の経緯が判明したとしても、どれだけ優れた再発防止策が講じられたとしても、廃棄された事件記録が戻るわけではない。土師さんは「司法は(廃棄を巡る)被害者や遺族のつらく、切ない心情を少しでも理解してほしい」と述べる。「記録が戻らない中で大切なのは、今後を見据えること。廃棄の経緯や対策をどうしていくかを説明するのは、彼ら(最高裁)の責任であり、当然の義務だと思う」。(篠原拓真)

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