ダブル挑戦

 大熱戦。解説の棋士は「どっちが勝ちか全然分かんないですね」と役割を放棄したかのような発言を始め、やがて「将棋の魅力」を語りだした。ほんとうに絶妙なゲームなんです▲そこから数手先の解説。「羽生さん、さすがの切り込みです。足りないか、と思った攻めがつながっている。芸術です」「受けている佐々木さんも見事。ちょっとイヤな空気なのに、しっかり対応して最近の充実ぶりがよく表れている」▲さらに数手先-。長く続いた優劣不明の局面を抜け出したのは佐々木大地七段=対馬市出身=だった。迷いのない指し手で敵玉を追いつめていく。先週の本欄でも紹介した将棋の王位戦挑戦者決定戦、羽生善治九段を下し、藤井聡太六冠への挑戦を決めた▲佐々木さんは6月に開幕する棋聖戦に続いてのタイトル戦登場。王位戦の7番勝負は7月から9月にかけて指される。長く暑く熱い夏になりそうだ▲「王位」は佐々木さんの師匠である深浦康市九段=佐世保市出身=にとっても、ゆかりの深いタイトルだ。1996年に初めて挑戦したのも、2007年から3期続けて獲得したのもこの王位▲よく覚えている。王位奪取の直後、深浦さんは「九州にタイトルを持って帰れる」と語った。同じ言葉がまた聞けるだろうか。気の早い期待が膨らむ。(智)

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