4月の統一地方選では、女性の躍進が目立った。前半戦の41道府県議選のほか、後半戦の294市議選でも当選者数、割合とも過去最高になった。男尊女卑の風潮が根強いと言われてきた鹿児島でも、4月の県議選では改選前の5人から当選者が11人に倍増。議席に占める割合も21・6%に急伸し、全国で5位、九州ではトップに躍り出た。後半戦の大崎町議選では、28歳の女性がトップ当選して「女性ゼロ議会」の壁を打ち破った。躍進を後押ししたのは何なのか。舞台裏を追ってみると、「おじさん政治からの脱却」「市民の意識の変化」というキーワードが見えてきた。(共同通信=渡具知萌絵)
▽1人目として
男女格差を研究者らが算出した「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」(2023年版は3月公表)の政治分野で46位と低迷する鹿児島県。地元紙の南日本新聞も近年、3月8日の国際女性デーに合わせた連載を企画し、職場や学校などに潜む男女格差の現状について、問題提起を続けてきた。
男性中心の政治に変化の兆しが見えたのは2019年の垂水市議選だ。初当選し、1958年の市制施行以来初めての女性議員となったのが池田みすずさん(49)。今年4月中旬、改選期の市議選に向け、動きを活発化させていた。
応援には、県議選の霧島市・姶良郡区で初陣ながらトップ当選を果たし、この区で初めての女性県議となった平原志保さん(51)が入り、垂水市内中心部のスーパーで声を張り上げた。「人口の半分は女性です。議会には女性の目線も必要です。多様性がうたわれるこの時代、女性の意見が入ることが第一歩です」
横一線の厳しい戦いと聞き、投開票日の前日に応援演説に立った平原さんは、市民に力強く訴えかけた。自身も池田さんも選挙区で1人目の女性議員になったため、「同じ子育て世代でもあり、挑戦する大変さがよく分かる」と話す。
平原さん自身の選挙戦を振り返ると、有権者から「よくぞ決心してくれた」と言われることが多かった。「高齢男性ばかりの議会を変えてほしいとの声が集まったのではないか」と考えている。
▽当事者の声を届ける
改選前の垂水市議会の構成は、14議席のうち70代以上の男性が8人、女性は1人。自営業の高橋理枝子さん(57)は2人目の女性市議を目指し、2度目の選挙戦に挑んだ。
前回の選挙では、何者かに車をパンクさせられるなどの嫌がらせを受けた。「二度と出るか」と思うほど苦しかった。それでも出馬を決意したのは、介護や子育ての問題を考える上で「当事者の声が必要だ」と考えたから。3人の子どもを育て上げ、現在はパーキンソン病を抱えた母親の在宅介護に奮闘する。
「『介護に専念したらいいんじゃないの』と厳しい声もいただく。母のそばにいられない葛藤もある」。選挙カーで市内を回り、涙をこらえながらマイクを握った。「当事者の声がしっかり届いていない。女性は1人、2人、3人、4人と増えることで、垂水が必ず変わる」
▽変化した市民の意識
高橋さんを支えていたのが、市民団体「鹿児島県内の女性議員を100人にする会」代表で、南さつま市議の平神純子さん(66)だ。選挙カーを運転し、自身も応援演説をするなど全面的にサポートした。
平神さんは臨月だった38歳のときに初当選。1996年に女性議員の割合が少ない鹿児島の現状を変えようと会を設立し、立候補者の発掘や選挙戦の指南に力を注いできた。
垂水市議選は予想通りの接戦となったが、結果は高橋さんが2位で、池田さんが3位。女性候補がいずれも上位に食い込んだ。
統一選後半戦では、他にも県内の議会でいくつもの「女性ゼロ」が解消した。大崎町議選で28歳の藤田香澄さんが女性として初めて当選したほか、阿久根市議選では会の後押しを受けて立候補した女性が初当選し、4年ぶりの女性議員誕生となった。枕崎市議選では過去最多に並ぶ4人が当選し、市議の3分の1が女性になった。平神さんは「女性の政治参画の遅れを指摘する報道が活発になり、市民の意識が変わったのではないか」と声を弾ませた。
▽次につなぐために
今回の選挙で当選した女性たちは結果を喜びつつ、決意を新たにしている。
「『ここで変わらなければ生活は変わらないのでは』という市民の意識が大きな風を吹かせてくれた」。そう話すのは、激戦となった県議選の出水市区で、現職を破り初当選した新人の橋口住真さん(60)。「当選した女性一人一人が多様な問題を吸い上げなければ、『女性が増えても何も変わらないじゃないか』となってしまう。それでは後の女性たちが続いていかない。真価が問われる時だと、襟を正す思いだ」
▽残る課題
有権者から男性中心の議会からの脱却を求める声が聞かれる一方で、女性や子育て世代の政治参画にはいくつもの「壁」が存在する。
17議席を26人で争った県議選の鹿児島市・鹿児島郡区。新人ながら3位で議席を得た立憲民主党の宇都恵子さん(40)は、会社員として働く傍ら、長男(1)の育児に奮闘する。選挙中に「女に何がでくっとか(何ができるのか)」と言われたことは一度もなく、むしろ「若い人ががんばらんとね」「これから女性が出ていかないとね」と言われた。だが、支援者やスタッフは男性も多かった。理解は示してくれていたが、家を出る前に子どもが突然嘔吐して出発が遅れるなど、子どもがいると物事を思い通りに進められないことを理解してもらうのは難しかった。
子育て中の女性は時間との闘いだ。「夜の会合への出席は必要だが、現実的に難しい…」。長男は最近からようやく保育園に預けられるようになったが、今後も悩みながら育児と両立していくしかないと腹をくくっている。
▽男女で当たり前に
鹿児島大の平井一臣教授(政治学)は、県内の女性当選者の躍進について、これまで取り残されていた政治の世界でもようやく女性の進出が加速し始めたとみる。「高齢男性一色で染まっていた議会に多様な意見を反映してほしいという声が高まり、選挙にチャレンジする女性もようやく増えてきた」と話す。
以前ほど組織票や地縁関係の票は強くなく、特に都市部では、個人が投票先を決める時代になっているという。女性躍進の流れが今後も続くよう、「男性側もこれまでの男性中心の議会運営を見直し、当たり前に男女で議会を作っていく環境を整えるべきだ」と強調した。