常磐線特急「ひたち」「ときわ」で直接羽田へ 本格着工の空港アクセス線に一部乗り入れ 「鉄道なにコレ!?」【第44回】

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

JR東日本の常磐線特急に使っている電車「E657系」=2020年10月1日、東京都千代田区で筆者撮影

 東京の空、陸それぞれの“玄関口”である羽田空港と東京駅を約18分で直結するJR東日本の新路線「羽田空港アクセス線」の本格的な工事が6月に始まる。JR東日本幹部は、2031年度に予定している開業後は常磐線特急の一部列車は羽田空港新駅の発着になるとの見通しを明らかにした。常磐線沿線は、国内外へのアクセスが飛躍的に向上することになり、外国人旅行者を呼び込む起爆剤にもなりそうだ。(共同通信=大塚圭一郎)

羽田空港の第3ターミナル。奥は富士山=2020年10月18日、東京都大田区で筆者撮影

 ▽東山手ルートは東北線、高崎線、常磐線と直通に
 JR東日本によると、羽田空港アクセス線の終点の羽田空港新駅(仮称、東京都大田区)を第1、第2の両ターミナルの間にある空港構内道路の地下に建設。最大15両編成が乗り入れられる長さ約310メートル、幅が最大約12メートルの1面2線の島式プラットホームを地下1階の深さに設け、新駅と隣接した第2ターミナルを高低差なく移動できるようにする。
 羽田空港アクセス線からは3方面へのルートを計画しており、うち最初に整備をするのは「東山手ルート」(新橋、東京、上野経由)。他に、東京貨物ターミナル駅(東京都品川区)の近くで分岐する「西山手ルート」(新宿、池袋経由)、「臨海部ルート」(東京・台場の東京臨海高速鉄道りんかい線東京テレポート経由)を将来建設する。
 東山手ルートは田町駅(東京都港区)の付近までの12・4キロを整備し、工事費は約2800億円。東海道線と上野東京ラインを経由して東北線や高崎線、常磐線と直通する電車を走らせる。

JR田町駅付近を走る東海道線の電車「E233系」(左)と京浜東北線のE233系=2020年10月27日、東京都港区で筆者撮影

 ▽約18分に短縮、1時間に4往復
 東京駅と羽田空港は、現在は乗り換えて最短でも約30分かかるが、新駅とは約18分で結ばれ所要時間は大幅に短縮される。羽田空港と迅速に結ぶのが主眼のため「羽田空港新駅と新橋駅の間に停車駅を設ける計画はない」(関係筋)という。
 羽田空港アクセス線と東海道線が合流する田町駅付近の一部区間が単線になるのが制約となり、運転本数は1時間当たり4往復、1日当たり72往復にとどまる計画だ。JR東日本は具体的なダイヤは未定としている。
しかし、社運を賭けた大規模な投資を決める過程では、どのような列車を羽田空港に乗り入れさせるのかを社内でシミュレーションをしているのが一般的だ。

 ▽品川駅発着の「ひたち」と「ときわ」の一部を新駅に移行
 そこで、あるJR東日本幹部に直撃したところ「なるほど」と膝を打つ計画を聞いたため、2023年5月8日から配信されている共同通信Podcast番組「きくリポ」の#17「国鉄型車両引退スクープの裏側から新線開業に関する新情報、西九州新幹線の今後まで…鉄道の『なにコレ!?』に迫る」
https://omny.fm/shows/news-2/17
で明らかにした。
 詳しくは聴いていただきたいが、話題が羽田空港アクセス線に及んだ際に筆者は「あるJR東日本の幹部から聴いた話ですが、羽田空港アクセス線が開業すると、現在は常磐線の土浦や水戸といった茨城県と結んでいる特急の『ひたち』と『ときわ』の一部は、そのまま羽田空港の駅まで乗り入れ、そこ(羽田空港新駅)の発着になるようですよ」と申し上げた。 
 現在は「ひたち」と「ときわ」が品川駅を発着しているが、幹部は一部列車の東京側の発着を羽田空港新駅に変えることを想定していると明らかにした。品川発着の常磐線特急は原則として1時間2往復しているため、羽田空港新駅の開業後は同1往復が同駅を発着し、品川発着は同1往復に減ることが見込まれる。
 常磐線沿線は1本の特急で羽田空港と結ばれることで、国内外へのアクセスが飛躍的に改善するのは確実だ。ともに水戸市にある「日本三名園」の一つで梅の名所として知られる「偕楽園」や、水戸藩第9代藩主の徳川斉昭が1841年に開設した日本最大規模の藩校だった「弘道館」といった観光名所へ外国人旅行者を呼び込む追い風にもなりそうだ。

JR東日本の上野東京ラインに乗り入れる電車「E231系」=2018年6月29日、さいたま市で筆者撮影

▽常磐線特急が乗り入れるべき理由とは
 東山手ルートは羽田空港新駅と東北線、高崎線もそれぞれ直結する。その中で常磐線と結ぶ特急を走らせるのが理にかなうのは、東関東と都心をつなぐ新幹線が走っていないからだ。
 JR東日本は東北線沿線にある大都市の宇都宮駅、あるいは高崎線沿線の高崎駅から羽田空港へ向かう利用者に対しては、東北新幹線または上越新幹線で東京駅へ向かってもらい、羽田空港新駅行きの電車に乗り換えてもらうように誘導するはずだ。
 ただ、羽田空港アクセス線への重要な連絡線となる上野東京ラインが2015年3月に開業するまでの経緯を振り返ると「特に埼玉県などが東北線と高崎線の東京駅乗り入れを熱心に要望していた」(JR東日本幹部)とされる。
 結果として常磐線、東北線、高崎線のいずれも上野東京ラインへの直通電車が恒常的に運転されており、羽田空港新駅へ乗り入れる電車も同じような流れを引き継ぎそうだ。
 羽田空港新駅と結ぶ1時間当たり4往復の配分は、常磐線の特急、常磐線の特急以外、東北線、高崎線がそれぞれ1往復になる可能性も想定されよう。
 一方、羽田空港新駅にはJR東日本以外の乗り入れも「期待」する“変化球”の構想もある。次回の本連載「鉄道なにコレ!?」でご紹介したい。

羽田空港第3ターミナルの近くを走る東京モノレールの車両「10000形」=2020年12月9日、東京都大田区で筆者撮影

 【羽田空港】国が管理する拠点空港で、日本各地を結ぶ国内線と世界の大都市とつなぐ国際線が発着する日本の代表的な“空の玄関口”。東京都心部に近い東京都大田区にある。正式名称は「東京国際空港」だが、所在地に由来する「羽田空港」と呼ぶことが多い。現在は京浜急行電鉄、JR東日本子会社の東京モノレールなどが東京都心部と結んでいる。
 滑走路は4本あり、うち2本が長さ3千メートル、残る2本は2500メートル。日本の空港で旅客数が最も多く、羽田空港第1、第2ターミナルを運営している日本空港ビルデングによると新型コロナウイルス流行前の2019年の旅客数は計8758万4621人だった。
 1931年に開港し、第2次世界大戦後の連合国軍総司令部(GHQ)による接収を経て52年に再開した。78年に成田空港(千葉県成田市)が開港すると国際線が原則として移行し、羽田空港は国内線を中心に運用する「内際分離」が適用された。
 しかし、便利な羽田空港の需要が高いことを背景に内際分離を見直す機運が高まり、国際線ターミナル(現第3ターミナル)が供用開始した2010年10月には国際線定期便が約32年ぶりに復活。その後も国際線の路線網が順次広がった。

東京都心部の上空から見た風景。東京湾に架かるレインボーブリッジ、東京タワーなどが見える=2020年12月9日、旅客機から筆者撮影

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

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