不登校・いじめ過去最多 「個人尊重」へ変わる教育 支援者「幸せになったもん勝ち」【現場から、】

静岡県内の公立小中学校で2021年度、不登校の児童・生徒の数が過去最多を更新しました。こうした中、学校という集団的な教育から、個人を尊重する学び方へ変わりつつあります。

静岡市葵区のフリースクール「TOMARIGI」です。不登校の児童・生徒の居場所として2017年に開校しました。

<先生と生徒のやり取り>

「べんがく…これじゃないかな」

「学はあってる!べんは惜しい。勉強の勉だ」

TOMAGIRIでは、指導員1人に対し、子どもは5人までの少人数教育を行っています。

<通っている生徒>

「めっちゃ仲良いです」

Q学校とどっちが楽しい?

「こっちです」

ほかの子どもたちと一緒に過ごす環境に慣れるため、学年を超えて学校の宿題をしたりゲームをしたりしています。フリースクールは不登校の子どもたちにとって、社会とのつながりを感じられる大切な居場所です。

<TOMARIGI 安池豊代表>

「みんなと同じように学校に通えなくてもオッケーっていうか、自分の生きたい人生だったりとか生活っていうのを送れたらいいんじゃないのかなと思う」

不登校支援を個人で行っている人もいます。静岡市でバリスタとして働く山本紘彰さんは不登校の子どもたちの自宅に通い、メンタルケアを行っています。きっかけは、自身の中学校時代の経験です。

<山本紘彰さん>

「一番最初は『バカ』みたいな、本当に幼稚の部分から入ってきて、僕の友達とかも殺人予告的な感じのことを結構されて、『君が学校に来るんだったらそういうのを続ける』みたいなことがあったんですよね。それもあって僕は不登校になりました」

同級生などからの暴言や暴力に加え、友人をバカにされたことがきっかけで、中学1年生の6月から不登校になりました。

<山本紘彰さん>

「無理して精神削って、僕の場合は本当にけいれんとか、精神的にもうおかしくなっちゃってるところまでいって学校に行くよりも、きっちり戦略的な撤退ができる」

山本さんは、不登校になり初めて外出した際に飲んだコーヒーの味に感銘を受け、その世界に興味を持ったといいます。不登校の子どもたちには、引きこもりにはならず自分のやりたいことを見つけてもらいたいという思いで支援活動を続けています。

<山本紘彰さん>

「不登校だから僕は…って病んでしまうよりかは、もっともっと自分の経験に回してほしいなと思います。自分がやりたいなと思えることとちゃんと向き合って、幸せになったもん勝ちだと思うので」

<滝澤悠希キャスター>

無理をするのではなく、個人を尊重すること。大切なことですね?

<植田麻瑚記者>

ただ、もう一つの課題があります。2021年度、県内の公立学校で認知したいじめの件数は、小学校で1万5018件、中学校で4899件と、いずれも過去最多を更新しました。山本さんのように、いじめが不登校につながるケースも少なくありません。現場では、いじめ・不登校の未然防止の取り組みも進んでいます。

<植田麻瑚記者>

「静岡市葵区の城内中学校です。現在1年生5クラスが一斉に道徳の授業に取り組んでいます。そのテーマは、いじめです」

ゴールデンウィーク明け、城内中学校で行われた道徳の授業です。

<教諭>

「いじめは起きているんだけど、だんだん分からなくなってきている。これっていじめじゃないかなっていうアンテナを高くすることが目的」

授業では、いじめている側とそれを受け入れている周りの責任が問われました。

<生徒>

「いじめっ子側から見ると、見ている周りのみんなが心の支えになっちゃってると思う」

<教諭>

「いじめている人が、いじめていいんだなって思っちゃうっていう心の支えってこと?」

<生徒>

「はい」(全員が)「あ〜!」

<1年生>

「いじめは人の弱さから生まれるもの。起きてしまうのはしょうがないことだから、それを周りの人がどうするかというのが大事なんじゃないかなと思いました」

<城内中学校生徒指導主事 堀真悟教諭>

「本校では伴走者っていう言葉を使って、生徒を引っ張るのではなくて、横に並んで一緒に歩んでいくというイメージを全職員が共通認識をもって生徒たちと関わりを持っています」

しかし、いじめや不登校をゼロにすることは難しいのが現状です。訪問教育相談員を務める吉澤正展さんは、不登校の児童・生徒の家庭に出向き、子どもと保護者の様子や相談ごとを学校に伝えます。

<訪問教育相談員 吉澤正展さん>

「人間関係だとか家庭に居場所がないだとかね。あと相談を聞いてもらえない、周りにいない。何年か前は無理にでも来させる、家庭訪問をして無理にでも連れてくるような指導をしてきましたが、今はそんなことはせずに気持ちを大事にしている」

学校には、こうした相談員やスクールカウンセラーが配置され、子どもたちと教諭との橋渡し役を担っています。

<静岡県義務教育課 石井宏明さん>

「心理や福祉的な側面から、子どもたち1人1人に合った適切な支援ができるように、学校のニーズに応える形で配置時間数を増やして対応してまいります」

<滝澤キャスター>

学校に行くことが全てではないのはもちろんですが、学校に来てもらうための体制づくりも進んでいるんですね?

<植田記者>

学校側は、子どもたちが自分らしくいられるのであれば、フリースクールなどの選択を尊重したいという思いがある一方で、学校でしか体験できない修学旅行や部活動などの貴重な体験をしてほしいという思いの葛藤があるのも現状です。

また、フリースクールを「出席日数」とみなすかは、各学校長の判断となっています。ばらつきをなくすための取り組みも今後、重要になっていきそうです。

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