社説:ひきこもり 従来像を修正し支援を

 内閣府は、自宅にいる15~64歳のひきこもりの人が、全国で推計146万人に上ると発表した。この年代の約50人に1人に当たる。

 調査は初めて対象年齢や人数を大幅に広げて実施した。ひきこもりは若者の問題とみられがちだが、長期化、高齢化が進んでいることが浮き彫りになったといえる。

 支援の手が十分届いているとは言い難い。対策を再点検し、孤立させない取り組みを強化する必要がある。

 調査によると、15~39歳の63%は就労経験があり、職場の人間関係などがひきこもりの原因とみられる。5人に1人は新型コロナウイルス禍がきっかけとした。

 男性が中心と思われていたが、40~64歳では半数超が女性だった。これまで家事手伝いや専業主婦と位置づけられてきた人の中にもいると考えられる。

 ひきこもりは注目を浴び始めた当初、不登校の延長とされてきた。実際は、多様な現状があることがうかがえる。80代の親と暮らす50代のひきこもりの人が困窮する「8050問題」も深刻化している。

 だが、これまで支援の軸は「治療」だった。

 厚生労働省の研究班が2010年に作ったガイドラインは、精神疾患の有無の判断や早期の受診に重点が置かれている。そのため、診断を受けていないと行政サービスにつながることができず、「実態にそぐわない」と見直しを求める声が上がっていた。

 同省は、当事者や家族らの支援に役立てるため、初のマニュアルを作成する方針だ。24年度中の完成を目指すとしている。

 マニュアルでは、ひきこもり状況の新たな定義も盛り込む方針という。現在は「他人と交わらず、家庭に6カ月以上とどまり続けている状態」とし、支援対象としている。年齢や性別、疾患の有無で対象からこぼれ落ちることがないようにしてほしい。

 社会との関係が途切れる背景には、介護や貧困など複合的な課題を抱えているケースもある。生きづらさを解消するためのサポートも必要だろう。

 21年から、さまざまな困難を一括して相談対応できるよう、市町村を財政面で支援する改正社会福祉法が施行されている。

 自治体は民間団体とも連携しながら、本人や家族に寄り添い、それぞれの状況やニーズを踏まえたきめ細かな対応を積極的に進めなければならない。

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