アンドレス・イニエスタ退団。夏の補強は?首位に立つヴィッセル神戸の分水嶺

J1ヴィッセル神戸MFアンドレス・イニエスタの退団が25日、発表された。

2018年入団から5シーズン半にかけてワールドクラスのテクニックと判断の良さでチームをけん引してきた。

2019年にクラブ初タイトルの天皇杯を勝ち取り、翌年にはFUJI XEROX SUPER CUPを獲得に貢献。同年のアジアチャンピオンズリーグでは、Jリーグ勢最高位となる4強進出に導いた。

スペイン代表、バルセロナで名を馳せた世界屈指のクラッキは神戸から離れるが、チームは現在首位に立っている。

イニエスタと別れた後の恩恵と、リーグ制覇を狙う神戸が抱える課題などを分析した。

移籍金は発生しない

イニエスタと神戸は今季末までの契約を結んでいたが、7月1日のJ1リーグ札幌戦を最後にクラブから離れる。

リリースでは退団と明記されているため、シーズン半ばでの双方合意の契約解除となる。

そのためイニエスタはフリーとなるためゼロ円移籍が可能になり、移籍金は発生しない。

年齢やフィジカル面の衰え、チームへの貢献や引退後の関係性も考慮しての契約解除と推測できる。

仮に移籍金が発生していた場合は『transfermarkt』の推定移籍金によると120万ユーロ(約1億8千万)。この移籍金満額とはいかないまでも、神戸にとってはそれ程大きな収益にならなかった可能性が高い。

目先の移籍金より、今後のイニエスタとの関係性に価値を見出したと推察できる。

浮いた高年俸の使い道

移籍金は発生しないが、その代わり浮いた高年俸によるメリットが神戸に発生する。

現在のイニエスタの年俸は推定20億から18億円と言われており、満額の半分となる9、10億円分の人件費が浮く可能性が高い。

その場合は浮いた約10億円の人件費を夏の補強費用や新戦力の人件費に充てることが想定できる。

ただし、イニエスタの年俸はどのように会計処理されているかは分からないため、そのまま浮いた年俸分が人件費や補強費に予算として組み込むことができるかはフロントのみぞ知るところ。

仮に浮いた年俸約10億円+夏の補強費を使うことができる場合は、補強を優位に進めることができる。

例年神戸は夏の移籍市場で大型選手を獲得してきた。

FWルーカス・ポドルスキ、DF酒井高徳、FW大迫勇也、FW武藤嘉紀と夏の欧州市場を見据えて補強計画を進める傾向にある。

後述でも書くが、イニエスタの浮いた年俸で課題となっている控え層の薄さを解決できるかもしれない。

薄い控え層とA契約枠の課題

今季圧倒的な強さを見せている神戸だが、大きな課題を抱えている。それは層の薄さだ。

J1第14節柏レイソル戦で交代枠5枠の内、吉田孝行監督は2枠しか使えなかった。

主力組と控え組の実力差が離れており、控え組の選手を起用すればチーム力が落ちる危険性が高いとの判断だろうか。この層の薄さに神戸は苦しんでいる。

また現在の神戸のA契約枠は、最大25人の内24人が埋まっている。

そして24人中10人がリーグ戦出場5試合以下で出場時間も100分に満たないという危機的状況だ。

この数字は退団が決定したイニエスタが含まれているため、7月1日以降はA契約枠が23人となる。

ただ、このひっ迫したA契約枠のままでは新たに補強しても2選手しか補強できないため、薄い控え層を解決することが難しくなる。

長期離脱中のDF菊池流帆を登録抹消にすれば22人となるも、劇的な改善にはつながらない。

MF飯野七聖(4試合出場、出場時間91分)、FWステファン・ムゴシャ(1試合出場、出場時間2分)、FWリンコン(1試合出場、出場時間1分)、MF扇原貴宏(1試合出場、出場時間1分)、今季リーグ戦に出場していないFW川﨑修平、GKフェリペ・メギオラーロ、DF高橋祥平、MFセルジ・サンペールの計8人は余剰戦力としてA契約枠を圧迫している。

そのため今夏に余剰戦力を放出して、即戦力の補強など大ナタを振るわなければ、悲願のリーグタイトル獲得は厳しいだろう。

現在の神戸は高強度のプレス、鋭いカウンター、強固なディフェンスラインによって首位を堅持している。ただしこのサッカーを高い質で遂行するには相当の運動量が必要となるため、夏場を乗り切れるかが懸念材料となっている。

層が薄ければ主力組の負担は大きくなるため、早急に解決しなければいけない課題だ。

新たなワールドクラス獲得か複数の即戦力を補強か

これまで神戸は数多くのワールドクラスを獲得してきた。

さかのぼればバルセロナとレアル・マドリーで伝説的な活躍をした元デンマーク代表MFミカエル・ラウドルップに始まり、ポドルスキ、イニエスタ、FWダビド・ビジャ、DFトーマス・ヴェルマーレンと早々たるレジェンドが顔を並べる。

夏季にイニエスタに代わる新たなワールドクラスを獲得することは神戸なら可能だろう。だが先述した層の薄さなどを解決しなければならないため、現実的な課題を考えればその選択は、リーグタイトルを狙う神戸にとって首を絞める選択になりかねない。

元日本代表、もしくは日本代表当落線上の欧州クラブに所属する選手や、ネームバリューは低くても高い確率で結果をもたらす実績のある外国籍選手など、複数の即戦力を獲得する方針が課題の解決につながる可能性が高い。

もちろん複数の即戦力を獲得する場合は、余剰戦力の完全移籍または期限付き移籍での放出など人員整理は必要となる。そのためフロントに課されるタスクは非常に多い。

イニエスタの退団が決定したが、チームは多くの課題が残っている。

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新たにアイコニックなワールドクラスを獲得するか、それとも複数の即戦力を補強してリーグ制覇を引き寄せるのか。分水嶺に立たされている神戸の動向を見守っていきたい。

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