私物ではない

 「道楽息子」が短くなった-というのはどうかな、と見当を付けながら語源を調べてみたら、ルーツは別の言葉のようだ。元々は〈自分自身の働きがなく、遊んで暮らしている状態〉を指す「のら」という言葉で、それが強調されて無理やり濁点が付いたらしい▲「異次元のどら息子」と辛辣(しんらつ)な異名が登場している。岸田文雄首相の長男で秘書官を務める翔太郎氏が昨年末、首相公邸内で親族との食事会を開き、記念撮影などに興じていた-との週刊誌報道が波紋を広げている▲参加者の1人が赤じゅうたんの階段に寝そべったり、皆で閣僚の記念撮影をまねたり…となかなか羽目が外れている。「不適切だった、厳重に注意した」と首相も渋い顔だ▲その首相は先のG7サミットについて、各国首脳らの原爆資料館訪問などを実現させるなど「歴史的意義があった」と上機嫌に総括しているようだ。だが、核抑止の論理が広島の地で肯定されてしまったことへの落胆や疑問は消えていない▲個人的には、首相が「私の地元・広島」と繰り返し語るのも気になった。まるっきりのウソだとは言わないが、生まれも育ちも確か東京だったと記憶している▲公邸も被爆地も親族やあなたの私的空間ではないのだ-とひと続きに批判するのはさすがに飛躍が過ぎるだろうか。(智)

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