どうなる今年の中総体 部活動改革初年度 クラブチーム参戦で新たな課題も

県中体連に登録したクラブチーム数と出場条件

 部活動改革の一環で、本年度から中学総合体育大会(中総体)に地域スポーツクラブの出場が認められ、県内でも参入が相次いでいる。子どもたちに選択の幅が広がったほか、教職員の負担軽減を促す例もあり、早速効果が見え始めている。一方、クラブチームの出場条件は競技によってまちまちで、新たな課題も浮かび上がってきた。

■念願の出場

 長崎市立西泊中3年の嵩下瑠彩さん(14)は「最初で最後の中総体」を心待ちにしている。小学6年時にジュニアクラブで陸上を始めたが、地元の中学校に陸上部はなかった。部として活動をするのは無理でも、どうにか中総体に出られないか。学校側にお願いもしたが、かなわなかった。
 「普通に出場できるものと思っていたから、ショックだった」
 それでもクラブで競技を続け、中体連の主催以外の大会に出場。努力のかいあり、4月30日に行われた県大会の走り幅跳びで1位になるまでに成長した。そんな時に飛び込んできた「地域クラブでも出場可」の朗報。
 「今まで出たくても出られなかった憧れの大会。すごく楽しみにしている」
 6月に行われる長崎市中総体での優勝を目標に、小学生たちと一緒に伸び伸びと練習に励んでいる。

■申請相次ぐ

 国は中学校の部活動を地域スポーツクラブなどに移行する方針を決め、本年度から本腰を入れて改革を進めている。中体連も足並みをそろえ、主催大会にクラブチームの出場を認めるように見直したところ、全国各地で応募が殺到。長崎県中体連には18競技86団体から届け出があった。
 出場したくてもできなかった子どもたちが救済される例があるほか、実質的な部活動の場となっている空手道場やスイミングスクールからの届け出も多い。競技によっては部活動の完全地域移行、ひいては教員の負担軽減につながる好循環が早くも期待できる。
 また、ソフトボールの男子は大会の活性化につながりそうだ。県内に部活の男子チームが1校しかないため、これまではその1校が自動的に九州大会に進んでいたが、今回の見直しに伴い四つのクラブチームが参戦を表明。県中総体を開催できる見通しが立った。
 他競技の先陣を切って4月半ばにクラブチーム専用の予選会も行われ、2チームが県中総体の切符を獲得。優勝した長崎KSCは、クラブチームの全国大会で優勝経験がある強豪で、吉田翔代主将は「中総体という大きな大会に参加できることがうれしい」と中学生最大の祭典への仲間入りを喜んでいる。
 なお、クラブチームから参戦する場合、陸上、水泳、体操・新体操の3競技は通常通り、郡市大会から出場。大会や学校現場の混乱を抑えるため、他の競技は当面2年間、県中総体につながる地域クラブ限定の予選を各競技団体主催で実施するよう県中体連が決めている。

■勝利至上に

 一方、危惧されていた負の側面については、対応が後手に回っている感が拭えない。早くも選手の“囲い込み”に走る民間クラブが出始めたのだ。
 ジュニア期からの過度な勝利至上主義を見直そうとした機運が全国的に高まっている中、広範囲から能力の高い選手が集まるクラブチームの参入は、時代の流れに逆行するのではないか-。中体連はこうした懸念を踏まえ、出場条件を念入りに議論したものの、競技人口の違いなどから結果的に競技によってかなりばらつきが出た=表=。
 例えば、陸上のリレーは同一校でメンバー編成するように定められているが、水泳のリレーはその縛りがない。中体連主催の全国大会と各協会主催の全国大会のどちらか一方を選ぶように制限している競技もあれば、制限していない競技では結果主義に走るクラブチームが横行する危険性をはらんでいる。

■別チームで

 西彼長与町は全国に先駆けて部活改革に取り組んでいるモデル地区だ。町内三つの中学校で既に休日部活の地域移行を完了させており、本年度はこのうち、バスケットボールの男子と女子がクラブから出場するように決めたものの、その過程で先行事例ならではの悩みに直面した。
 少子化に歯止めがかからない中、子どもたちがスポーツを続けられる環境を整えるのが部活動改革の目的の一つだが、長与町の場合は現時点で部員数が多過ぎるのだ。三つの中学校が同じクラブチームから出場するとなれば、かなり多くの部員がメンバー登録から外れるという事態になった。
 生徒を中心に検討を重ねた結果、クラブチームは3年生を中心に編成、メンバーに漏れた1、2年生は従来通り、中学校チームから出場することに。普段は一緒に練習する仲間が別々のチームで出場するというイレギュラーな形になったが、中学校チームで出場する選手からは「気持ちの切り替えは済んでいる。また別のモチベーションがある」と前向きな声も聞かれた。
 「前例がないことに取り組んでいる。細かい修正が加わっていくかもしれないが、大きな気持ちで受け止めながらやってもらいたい」。4月上旬、指導者を集めた地域移行の説明会で、金﨑良一・長与町教育長はこう理解を求めていた。部活改革が進めば類似のケースが頻発することも予想される。今後の交通整理が不可欠となるだろう。
 今月から、いよいよ各郡市で中総体が始まる。部活動改革の元年は、手探りでのスタートとなりそうだ。


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