新種の植物、国内外で50種発見 現代の牧野富太郎が神戸に 徹底観察とフィールドワークで次々

神戸大大学院理学研究科の末次健司教授。「日本で菌従属栄養植物を専門に研究しているのは僕くらい」と笑う=神戸市灘区六甲台町

 NHKの連続テレビ小説「らんまん」で主人公のモデルとなり、功績が再注目されている植物学者・牧野富太郎(1862~1957年)。数々の新種を発見、命名した「植物学の父」と呼ばれたが、神戸大にも、さながら牧野のように新種の発見を続ける研究者がいる。同大大学院理学研究科の末次健司教授(35)。これまでに国内外で約50種、国内だけでも約30種を発見した。なぜ次々と新種を見つけられるのか、末次教授に尋ねてみた。(勝浦美香)

### ■2週間

 「一つは、僕の研究テーマが関係しているんです」と末次教授。専門は植物生態学だが、注力するのが、キノコなどの菌類に寄生して繁殖する「菌従属栄養植物」の研究だ。なにやら難しい名前だが、一般的な植物と異なり、光合成をせず、土の中の菌類から栄養をもらって育つ植物を指す。

 これらの植物は葉が不要なため、1年の大半を土の中で過ごす。花が咲き、果実ができる時期にだけ地上に出てくるが、短いものでわずか2週間という。「発見のチャンスがものすごく限られているため、実はまだ研究が進んでいない未開拓の分野です」と末次教授は説明する。

 例えば、光合成をしない植物として最も身近なツツジ科の「ギンリョウソウ」。末次教授らが新種を発見するまでは、世界中でも1種類しかないと考えられていた。一方で、鹿児島県霧島市周辺に分布する赤色のギンリョウソウは、他と比べて開花時期が遅いことが知られていた。このため、末次教授らの研究グループが国内外で採取して詳しく調査。20年かけて、新種「キリシマギンリョウソウ」と発表した。

 さらに2018年、末次教授は1992年に採取された標本から、新種「コウベタヌキノショクダイ」を発見した。その時点では既に絶滅したとみられていたが、2021年に兵庫県三田市内に自生しているのが見つかり、今年2月、30年ぶりにコウベタヌキノショクダイと確認された。「妖精のランプ」とも呼ばれる花の様子に、「初めて見たときは、こんなに美しかったのかと感激した。誰も知らない生きものの不思議を明らかにできるのは、研究の一番の魅力」と語る。

### ■ヒント

 未開拓分野だからといって、誰もが簡単に新種に出会えるわけではない。末次教授の研究は、徹底した観察とそのためのフィールドワークに時間をかける。

 奈良県出身の末次教授は、「物心がついた頃からおもちゃよりも自然の方が好きな子どもだった」。原生林に入っては植物を探し、見つけたものはじっと見つめて観察したという。

 観察と探索はその後も続き、学生時代は1年の半分以上をフィールドワークに費やすほどに。最近も月に1度は探索に出かけ、各地にいる植物の愛好家から連絡を受ければ飛んでいく。

 「野外で探索をしていると、必ず何かしらの気づきがある。その時感じたことや疑問がヒントになることも多い」と末次教授。新種発見以外にもユニークな研究成果が多い。近年では、特別天然記念物のアマミノクロウサギが「ツチトリモチ」の種子を運ぶ役目を担っていることを発見。昆虫のナナフシの卵は、鳥に食べられても排せつされた後にふ化し、子孫を残すことも突き止めた。

 「見た目の違いや開花時期、関連する動植物の動きなども新しい発見の重要な手がかりになる。身近なものでも、じっくり観察してみれば、思わぬ大発見につながるかもしれませんよ」

 末次教授の研究は、これからも続く。

© 株式会社神戸新聞社